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小説「恋ふらむ鳥は」

飛鳥時代の歌人・額田王を主人公に、日本の礎が築かれた変革期の時代を描きます。作・澤田瞳子さん、画・村田涼平さん。

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小説「恋ふらむ鳥は」

/314 澤田瞳子 画 村田涼平

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 歌詠みだと、との呟(つぶや)きとともに、軍丁(いくさよぼろ)が手を放す。地面に突っ伏すとともに、今さらのように髪の根がじんじんと痛んできた。

「歌詠みとは、どういう意味だ。つまりは宴(うたげ)に侍(はべ)る俳優(わざおぎ)か」

「それにしては、年を食っておりますな。さしたる美貌でもありませぬし」

 嘲(あざけ)りを含んだ笑いが、軍兵の輪を大きく揺らす。いずれもそこここに血飛沫(しぶき)を浴び、中には傷を負っているのか片手を力なく下げたままの者もいる。だが瀬多(せた)橋の戦の後、さしたる妨害もなく近江宮にたどりついたことに、そろって気のゆるみが隠せぬ様子であった。

「いずれにしても、まずは宮城を隈(くま)なく探せ。どこぞに大友(おおともの)王子(みこ)が隠れているやもしれぬ」

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