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歌詠みだと、との呟(つぶや)きとともに、軍丁(いくさよぼろ)が手を放す。地面に突っ伏すとともに、今さらのように髪の根がじんじんと痛んできた。
「歌詠みとは、どういう意味だ。つまりは宴(うたげ)に侍(はべ)る俳優(わざおぎ)か」
「それにしては、年を食っておりますな。さしたる美貌でもありませぬし」
嘲(あざけ)りを含んだ笑いが、軍兵の輪を大きく揺らす。いずれもそこここに血飛沫(しぶき)を浴び、中には傷を負っているのか片手を力なく下げたままの者もいる。だが瀬多(せた)橋の戦の後、さしたる妨害もなく近江宮にたどりついたことに、そろって気のゆるみが隠せぬ様子であった。
「いずれにしても、まずは宮城を隈(くま)なく探せ。どこぞに大友(おおともの)王子(みこ)が隠れているやもしれぬ」
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