山岳霊場のジャストサイズ 高野山に半世紀ぶり人力車駆ける

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「普段とは違う視点で高野山を」と人力車をアピールする高井良知さん=和歌山県高野町で2021年5月26日午後2時28分、山口智撮影 拡大
「普段とは違う視点で高野山を」と人力車をアピールする高井良知さん=和歌山県高野町で2021年5月26日午後2時28分、山口智撮影

 世界遺産の高野山(和歌山県高野町)で今春、半世紀ぶりに人力車が走り始めた。復活させたのは、地元でゲストハウスを経営する高井良知さん(43)。「車では狭く、徒歩では広い」という山岳霊場には人力車がジャストサイズ。提案するのは、環境に優しく、和の情緒と風を感じる新たな巡礼スタイルだ。

 高野山は真言宗の開祖、空海が開いた聖地で、標高約800メートルの山内には壇上伽藍(がらん)、金剛峯寺、空海の霊廟(れいびょう)がある奥之院(おくのいん)などがあり、宿坊を兼ねた寺院が建ち並ぶ。

昭和初期に高野山内を走っていた人力車=和歌山県高野町提供 拡大
昭和初期に高野山内を走っていた人力車=和歌山県高野町提供

かつては「唯一の交通機関」

 高野町史などによると、明治以降に人力車は「唯一の交通機関」として発達。1930年にケーブルカー・高野山駅が開業した当時は約100台の人力車がおり、空海の1100回忌に当たる34年の「大遠忌一千百年法会」の際には250台が集った。しかし、戦後はバス乗り入れなどの影響で衰退。55年の資料に「人力車が高野山から消える」とあり、引き手の多くは観光案内人に転じたという。

 高野山で生まれ育った高井さんは20代の頃に3年間英国に暮らし、バックパッカーとしてインドも旅した。安いゲストハウスに泊まり、各国の旅行者と交流した経験から「故郷に旅行者の受け皿を作ろう」と思い立った。

 2012年に奥之院に近い場所に「高野山ゲストハウスKokuu(コクウ)」を開設。高野山はインバウンド(訪日外国人)の観光客が多く、高井さんの宿もフランスをはじめ海外からの利用者で毎日のように満室で多忙な日々が続いた。転機はコロナ禍だ。宿泊客は激減し、同業者の廃業も相次いだ。日帰り客にも提供できるサービスはないかと考えた時に心に浮かんだのが、かねて「環境に配慮した乗り物」として温めていた人力車の運行だった。

京都や伊勢訪ね特訓

 人力車を引いた経験はなく、京都や伊勢の観光地で営業するベテランも訪ねて特訓を重ねた。車体を安定させたり減速させたりする技術の習得に苦労したが、約1年の準備期間を経て4月から本格始動した。高井さんは金剛峯寺のガイド資格も持っており、同寺を中心に壇上伽藍や南院、メインストリートの小田原通りなどを巡る。15~60分の貸し切り営業で、料金は1人3000円から。利用客には「普段とは違う非日常の目線でひと味違った高野山を楽しめる」などと好評だ。

 高井さんは「新事業を始める際に心掛けているのは『ないものは作る』という視点。かつて走っていた歴史があるなら今もなじむはず。いずれは高野山の風景に溶け込むような存在になりたい」と意気込む。

 利用の問い合わせは高井さん(0736・26・7216)。【山口智】

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