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詩歌の森へ

文芸ジャーナリスト・酒井佐忠さんの「詩」に関するコラム。

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詩を問う硬質で熱い文体=酒井佐忠

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田村隆一
田村隆一

 戦後現代詩の代表的詩人、田村隆一の名詩集『言葉のない世界』が、詩人にゆかりの神奈川県鎌倉市の出版社「港の人」から新装復刻版として刊行された。詩人の没後23年の現在、言葉とは、詩とは何かと、硬質で熱い文体で問うた名詩に触れることができるのは貴重なことだ。

 <言葉なんかおぼえるんじやなかつた/言葉のない世界/意味が意味にならない世界に生きてたら/どんなによかつたか>。詩集は全10編48ページのささやかなものだが、詩編「帰途」に収められた冒頭のフレーズは大きな衝撃を与えた。もちろん言葉の大切さを求める反語的な意味合いもあるが、言葉と意味の関係や、意味以前のものへの希求が表現されている、と解釈していいか。<あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか/きみの一滴の血に この世界の夕暮れの/ふるえるような夕焼けのひびきがあるか>。言葉は言葉以前の「夕焼けのひびき」を表すことができるか。

 まったく現代詩とは無縁、田村の経歴も知らないシンガー・ソングライターのミュージシャン、1971年生まれの曽我部恵一のしおりが興味深い。初めて田村の詩に触れ、「言葉のない世界とは(略)意味に支配されない状態を指すのか。サックスが咆哮(ほうこう)するとき、エレキギターが金切声を上げるとき、そこには言葉も意味もない」。田村の詩は音楽家も引きつける。

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