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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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相手の見当違いは「尻に目薬」…

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 相手の見当違いは「尻に目薬」、無理な話には「ひょうたんで鯰(なまず)を押さえる」とからかう。「鼻くそで行灯(あんどん)を張る」はごまかしを言う人への非難、言い負かされても譲らぬ相手は「這(は)っても黒豆」とあざけった▲民俗学者の柳田国男(やなぎた・くにお)が「ことわざの話」であげる古いことわざは、昔の「言葉争い」で用いられていたものである。他の村との談判や、町中(まちなか)で争いとなった時、口達者(くちだっしゃ)がくりだすことわざは相手を打ちのめすこと、手よりも早かった▲この言葉争い、周囲の笑いをとり、相手を詰まらせる――閉口(へいこう)させれば勝ちである。柳田は「ことわざ」は「口の武器として、敵を困らせるために発明せられ、また練習せられた」と述べ、その平和的紛争解決の効能をたたえている▲さてこちらの「言葉争い」は2年ぶりに行われた国会の党首討論である。菅義偉(すが・よしひで)首相が初めて野党代表と行った1対1の論戦が注目されたのは、コロナ禍の下での東京五輪開催に対する最後の態度表明の機会になりそうだったからだ▲野党代表にパンデミック下の五輪へのリスク認識を問われた首相は、前回東京五輪の自らの感動を語り、その開催の意義を訴えた。しかし肝心のリスクについては、すでに決まった感染対策による安全・安心をくり返しただけである▲野党代表の質問の背後には五輪への国民の疑念や反発があろうが、首相は正面からの答えを避けたようにみえる。「同じ事は一つ事」とは、いつも同じような話をくり返す相手にまぜっかえすことわざだ。

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