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小説「無月の譜」

将棋の駒をめぐる探求の物語。失われた名品の駒を求め、ある挫折感を抱えた男が旅に出ます。作・松浦寿輝さん、画・井筒啓之さん。

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小説「無月の譜」

/184 松浦寿輝 画・井筒啓之

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 物資欠乏の折り、供された飲食物も倹(つま)しいもので、皆黙りがちな、沈痛な空気の支配する集まりになった。盛り上がらないまま、それでも最後に、「関岳史くんの行を壮としその前途を祝し」「武運長久を祈って」――気勢の上がらない万歳が三唱され、それをしおに会はお開きになった。関と安井は一緒に帰途につき、下宿に戻ってきたが、いったん各自の部屋に引き取った後、深夜遅くになって、関が突然、安井の部屋を訪れたのだという。安井はもう電灯を消して布団のなかに入っていた。――もう寝てたのか、すまん、と関は言った。――いや、いいさ、まだ眠っていなかったから、目を瞑(つむ)っていただけだ、と安井は答えた。

 電灯を点(つ)け、布団のうえに半身を起こしてあぐらをかいた安井の前に、関も座りこんであぐらをかいた。

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