どん底からトッププロへ 「努力の天才」が伝えたいポーカーの魅力

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ユーチューバー「世界のヨコサワ」として活躍するプロポーカープレーヤーの横澤真人さん(右)と名和大貴さん=東京都渋谷区のポーカールーム「ROOTS SHIBUYA」で2021年6月3日、北山夏帆撮影 拡大
ユーチューバー「世界のヨコサワ」として活躍するプロポーカープレーヤーの横澤真人さん(右)と名和大貴さん=東京都渋谷区のポーカールーム「ROOTS SHIBUYA」で2021年6月3日、北山夏帆撮影

 トランプのゲームとして日本でも知られるポーカー。海外の大会で賞金を獲得して生計を立てる「プロポーカープレーヤー」と呼ばれる人がいる。ユーチューバー「世界のヨコサワ」(チャンネル登録者数約60万人)として活動する横澤真人さん(28)もその一人だ。世界各国のカジノで稼いだ賞金は約9360万円と国内トップクラスの成績を誇る。そんな横澤さんが11日、共にチャンネルを運営する名和大貴(ひろき)さんと2人でアミューズメントポーカーの店(お金を賭けず、賞金や景品も出さない店)を東京・渋谷にオープンした。新型コロナウイルス禍で海外遠征ができなくなる中、店を開いた思いとは――。【北山夏帆/デジタル報道センター】

プロの実力に記者も翻弄

 「ポーカーに対してどういうイメージがありますか?」。インタビューの初めに、横澤さんに逆に質問された。少し言葉に詰まると、「多少なりともギャンブルの黒いイメージがあるか、よく知らないって人が多いですよね。でも、ポーカーってカラオケやボウリングと違って、知らない人ともいきなり一緒に遊べるゲームなんです。こんなこと、大人になってなかなかないでしょう」

 同じ数字のカードを2枚そろえる「ワンペア」から、同じマーク(スート)でA・K・Q・J・10をそろえる最強の「ロイヤルストレートフラッシュ」まで、5枚の手札で作る役の強弱で勝敗を決めるのがポーカーだ。だが家庭向けと海外のカジノでは様相が違う。家庭向けでは、プレーヤーに配られた5枚の手札を1、2回交換する。一方、海外のカジノでは各プレーヤーに配られるのは2枚だけ。場に展開される5枚と合わせた7枚から5枚を選んで役を作り、チップを賭けて勝敗を争う。

多くの参加者でにぎわうポーカールーム「ROOTS SHIBUYA」のプレオープン。初心者向けのトーナメントでは、ルールや役を書いた冊子が配られ、ディーラーの説明を受けながらゲームを楽しむことができる=東京都渋谷区で2021年6月5日、北山夏帆撮影 拡大
多くの参加者でにぎわうポーカールーム「ROOTS SHIBUYA」のプレオープン。初心者向けのトーナメントでは、ルールや役を書いた冊子が配られ、ディーラーの説明を受けながらゲームを楽しむことができる=東京都渋谷区で2021年6月5日、北山夏帆撮影

 ポーカー経験のない記者が、後輩カメラマンと共に体験させてもらうことになった。チップの賭け方などを一から教えてもらい、3回ほどの勝負で流れを理解した。初心者でも楽しめそうだ。ただぜいたくながら、今回の相手はプロだ。役のない手に高くチップを賭けて強く見せる「ブラフ」を仕掛けられ、ウソに翻弄(ほんろう)されてばかり。「またウソでしょう」と勝負に乗ると、今度は本当に強い手。記者のチップはどんどん減っていった。

 どのカードが出るかわからない以上、運の要素が強いように思える。しかし実際にやってみると、弱い手を強く見せることや、いかにチップを取られず負けるかなどの駆け引きに、経験がものをいうことがわかった。「その場一回きりの勝負なら、運で素人にも負けることがある。でも、長く続けていこうとするなら、確実に実力がものをいう世界です」と横澤さんは語る。

20歳で借金4000万円、どん底で出合ったポーカー

 横澤さんがポーカーと出合ったのは20歳の時だ。18歳で大学を中退して会社を設立するも、人にだまされて2年で4000万円の借金を背負った。どん底の日々を送る中、友達に誘われて行ったのがアミューズメントのポーカールーム。実際にやってみると、友達よりルールや戦略を覚えるのが早く、一気にのめり込んだ。「僕はポーカーをやるために生まれてきた」と直感したという。

チップを賭ける横澤真人さん=東京都渋谷区のポーカールーム「ROOTS SHIBUYA」で2021年6月3日、北山夏帆撮影 拡大
チップを賭ける横澤真人さん=東京都渋谷区のポーカールーム「ROOTS SHIBUYA」で2021年6月3日、北山夏帆撮影

 世界のカジノは、21歳から入場できるところが多い。横澤さんは2013年12月、21歳の誕生日にプロポーカープレーヤーになることをSNSなどで宣言。直後に韓国で開かれた「ワールド・ポーカー・ツアー(WPT)」という大会で日本人初優勝を果たして賞金約1200万円を手にし、華々しいデビューを飾った。

 大会は規模が大きくなるほど参加費も数十万~数千万円と高額になり、負けた時のダメージも大きくなる。横澤さんが日本で過ごす時間の多くは、過去の勝負で何が最善手だったかを常に研究している。人工知能(AI)を使って最善手を計算させ、自分の手をなるべくその手に近づけているという。

 「世界のヨコサワ」チャンネルで企画や編集を担当する名和さんは、横澤さんを「底抜けに明るい努力の天才」と称する。実は名和さんも19年に「ワールド・シリーズ・オブ・ポーカー(WSOP)」という50年以上の歴史を持つ世界的な大会で賞金約3500万円を手にした実力者。そんな名和さんが「僕ならしばらく落ち込むような負けも前向きに受け止め、大会中も常に振り返りを怠らない。努力の量が他人とは違う」と太鼓判を押すのだ。

 名和さんがWSOPで賞金を手にしてから、2人は本格的に「日本でもっとポーカーの知名度を上げたい」と考えるようになった。会社員だった名和さんも仕事を辞め、本業をユーチューブ活動に絞った。動画では、世界のカジノでの様子やグルメの紹介だけでなく、ポーカーのルールを解説する内容も公開。チャンネル登録者数は徐々に伸び「ポーカーの面白さを知った。やってみたい」という声が多く寄せられるようになった。

コロナ禍だからこそできたこと

 そんな中、新型コロナウイルスが徐々に世界に広がっていった。昨年3月、米ワシントンで勝負していた横澤さんは、ホテルの従業員に「明日には外出禁止令が出る。ホテルも閉鎖になるので今すぐ出て」と言い渡された。日本に帰る飛行機は3日後。まだロックダウン(都市封鎖)されていないラスベガスに急いで移動したが、翌日には同じくホテルを追い出されて宿無しに。急きょ現地の友人の家を頼り、なんとか帰国の途に着いた。「カジノの従業員も『24時間365日開いているカジノが無人になるなんて初めてだよ』と頭を抱えていました。僕も、明かりの消えたカジノを初めて見ました」

 ただ、日本では名和さんが別の計画を進めていた。元々2人の目標の一つにあった、アミューズメントポーカールームの開店だ。「横澤が世界を飛び回り、僕が日本に拠点を作る」と名和さんは今年2月、開店に向けた株式会社を設立し、最高経営責任者(CEO)に就任。「日本のポーカーの発展につながる恩返しの活動に使いたい」と、残していたWSOPの賞金3500万円を全額開店資金につぎ込み、東京都渋谷区に「ROOTS SHIBUYA(ルーツ シブヤ)」の開店にこぎつけた。

インタビューに答えるプロポーカープレーヤーの横澤真人さん(左)と名和大貴さん=東京都渋谷区で2021年6月3日、前田梨里子撮影 拡大
インタビューに答えるプロポーカープレーヤーの横澤真人さん(左)と名和大貴さん=東京都渋谷区で2021年6月3日、前田梨里子撮影

 新型コロナで海外に渡航できず収入源を失った横澤さんだが、それ以上につらかったのが、チャンネルで活動を通してポーカーの魅力を見せられなくなったことだった。「僕らって日本にいると本当に『つまんない』んですよ。面白さを伝えるのが僕の役目なのに何をやっているんだろうなと」。だからこそ、開店を目指し、日本でポーカーを広める活動に集中できたことは、自身の救いでもあったという。トーナメントのルールや料金設定、提供するフードメニューなど、名和さんと細部まで相談を重ねた。「海外にいてはここまで関われなかった。初心者一人でも、女性でも、来場しやすいお店になったと思います」と胸を張った。

ポーカーの魅力伝える「ルーツ」に

 グランドオープンを6日後に控えた5日、店のプレオープンイベントとしてトーナメント戦があった。イベントには定員の約40倍の応募が殺到したという。記者が会場をのぞくと、白熱する勝負に拍手がわき起こるほど盛り上がりを見せていた。

プレオープンしたポーカールーム「ROOTS SHIBUYA」で、トーナメントに勝ち残り、真剣な表情を見せる参加者ら。アミューズメント施設ながら、本格的な勝負を楽しめる=東京都渋谷区で2021年6月5日、北山夏帆撮影 拡大
プレオープンしたポーカールーム「ROOTS SHIBUYA」で、トーナメントに勝ち残り、真剣な表情を見せる参加者ら。アミューズメント施設ながら、本格的な勝負を楽しめる=東京都渋谷区で2021年6月5日、北山夏帆撮影

 店は完全予約制で身分証の提示を義務付け、景品などの提供は一切行わない。東京都の要請に従い、当面の間は酒類の提供を停止し、午後8時までの営業とする。この日、優勝した大学生の石井竜雅さん(21)は「本格的な場所で、初めて会う人とレベルの高いポーカーができて楽しかった」と笑顔を見せた。

横澤真人さんが勝利の際に見せる自身の決めポーズ「メイクセンス(センスあり)!」を披露してくれた=東京都渋谷区のポーカールーム「ROOTS SHIBUYA」で2021年6月3日、北山夏帆撮影 拡大
横澤真人さんが勝利の際に見せる自身の決めポーズ「メイクセンス(センスあり)!」を披露してくれた=東京都渋谷区のポーカールーム「ROOTS SHIBUYA」で2021年6月3日、北山夏帆撮影

 「実は僕たちの出会いも、アミューズメント施設だったんです」と名和さん。店名には、2人の「ルーツ」という原点に立ち、みんなの「ルーツ」になってほしいという願いを込めた。横澤さんも「僕たちのように、大人になってもポーカーを通じて友達を作ってほしい。そのために、僕もポーカーの魅力を伝えていけるよう、もっともっと努力していきます」。

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