大阪市営住宅で相次ぐケーブル盗 背景にコロナ禍で広がる“観測”

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ケーブルが盗まれた部屋の床下=大阪市平野区の市営長吉六反東住宅で2021年6月2日午後3時22分、柳楽未来撮影 拡大
ケーブルが盗まれた部屋の床下=大阪市平野区の市営長吉六反東住宅で2021年6月2日午後3時22分、柳楽未来撮影

 老朽化のため取り壊しを控えた大阪市営住宅で4月以降、大量の電線ケーブルが盗まれる被害が相次いでいる。無人の団地に侵入して1階床下のケーブルをごっそり持ち去る手口が酷似する。被害は計1・7キロメートル以上(約160万円相当)に及び、市は大阪府警に被害届を出した。なぜ今ケーブルが狙われるのか。取材を進めると、こんなところにも新型コロナウイルスの影響が見え隠れする。

 市内の24区で最も人口が多い平野区の市営長吉六反東住宅は、1960年代半ば以降に43棟(1560戸)が建設された市内有数の巨大団地で、老朽化に伴い順次に建て替えが進む。

 市によると、5月20日午前11時ごろ、工事の準備のために現地を訪れた職員が、団地を囲う高さ約3メートルの仮設塀の南京錠が壊されているのに気付いた。中に入ると、ある棟の電気ブレーカーから住宅内につながっているはずのケーブルが刃物で切り取られていた。隅々まで調べると、被害は6棟に及び、直径4~40ミリのケーブルが計979メートル盗まれていた。

床下からケーブルが持ち去られた部屋。畳や床板がはがされ、床下に入り込まれたとみられる=大阪市平野区の市営長吉六反東住宅で2021年6月2日午後3時23分、柳楽未来撮影 拡大
床下からケーブルが持ち去られた部屋。畳や床板がはがされ、床下に入り込まれたとみられる=大阪市平野区の市営長吉六反東住宅で2021年6月2日午後3時23分、柳楽未来撮影

 駐輪場の付近に子供用の自転車や古いテレビなどが放置され、まだ人の営みの跡が残る団地。6月初旬、記者が市の担当者の案内で取材に向かうと、生々しい犯行の跡が残っていた。

 「電気の知識があり、住宅の構造を知っている人でないと犯行は難しいと思います」。担当者の説明を聞きながら、被害のあった5階建て住宅1階の一室に入った。6畳と4畳半の和室を備えた2DK。窓ガラスの鍵の周囲が割られ、ベランダの柵を乗り越えて窓から侵入したとみられる。

床下のケーブルが盗まれた部屋の窓ガラスは鍵の周囲が割られていた=大阪市平野区の市営長吉六反東住宅で2021年6月2日午後3時24分、柳楽未来撮影 拡大
床下のケーブルが盗まれた部屋の窓ガラスは鍵の周囲が割られていた=大阪市平野区の市営長吉六反東住宅で2021年6月2日午後3時24分、柳楽未来撮影

 畳ははぎ取られ、その下の床板に大人が入れるほどのすき間ができていた。1階床下には各戸につながる配電用のケーブルが多数敷設されていたという。しかし、床下に降りてみると1本も確認できなかった。一方で天井裏の細いケーブルは残されていた。担当者は「床下に太い配線があることを知っていて集中的に狙ったのだろう」と推察する。ケーブルは多数の銅線が束ねられ、電気を通さないカバーで覆われている。本来であれば解体業者に売却することになっていた。

 同市東住吉区の無人の市営住宅でも4月27日、11棟全てで計738メートルのケーブルが盗まれていることが判明。6月11日には同市平野区の市営東喜連第2住宅でケーブルがなくなっているのが見つかった。住民が5月末に退去したばかりだったという。ともに長吉六反東住宅のケースと手口は同じだった。

ケーブルの盗難被害があった市営長吉六反東住宅。高さ約3メートルの仮設塀で囲まれている=大阪市平野区で2021年6月2日午後3時17分、柳楽未来撮影 拡大
ケーブルの盗難被害があった市営長吉六反東住宅。高さ約3メートルの仮設塀で囲まれている=大阪市平野区で2021年6月2日午後3時17分、柳楽未来撮影

 いずれも団地の周辺には住宅街が広がり、大量のケーブルを持ち去る際に人目に付く恐れもある。

銅価格、過去15年で最高値に

 狙われる背景には銅価格の高騰があるとみられている。国内の電線メーカーなどでつくる「日本電線工業会」(東京都)によると、国内の銅の取引価格を示す「銅建値(どうたてね)」の5月平均は1トン当たり約115万円。1年前の倍で、公表されている過去15年で最高値だった。工業や建設業などで幅広く利用される銅の需要が新型コロナ収束後、世界的に増えるとの観測が市場に広がっているといい、担当者は「今までにない価格の上がり方だ」と話す。

 市内に483カ所ある市営住宅には、約17万5000人が暮らす。高度経済成長期に建てられた団地の多くは老朽化し、市は毎年10~15棟ずつ建て替えている。騒音対策などから数棟をまとめて解体するため、住民が退去してから解体が始まるまでの期間に目を付けられた可能性もある。

 他にも解体を待つ市営住宅があり、市住宅部の西田弘義課長は「警察に巡回をお願いしており、市も頻繁な見回りやセンサーライトの設置など対策を強化していく」と警戒を強めている。【柳楽未来】

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