疑惑で覚めた「魔術師の幻想」 ネタニヤフ氏はなぜ失脚したのか

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イスラエル国会に出席したネタニヤフ氏=2021年6月13日、ロイター
イスラエル国会に出席したネタニヤフ氏=2021年6月13日、ロイター

 イスラエルの「建国の父」ベングリオン初代首相の在任期間を超え、歴代最長の通算15年にわたって首相を務めたネタニヤフ氏の退陣が決まった。新型コロナウイルスのワクチン接種を国内で迅速に進め、敵対していた一部のアラブ諸国との国交正常化も果たすなど、安全保障や経済面での評価も高かったネタニヤフ氏はなぜ権力の座から転落したのか。そして新政権はイスラエルをどう変えるのか。【エルサレム三木幸治】

側近離反、「魔術師」の手腕に限界

 少数政党が乱立しがちな完全比例代表制のイスラエルで、常に連立交渉に手腕を発揮してきたネタニヤフ氏はしばしば「マジシャン(魔術師)」と呼ばれた。だが今年3月の総選挙後、ネタニヤフ氏率いる右派「リクード」は組閣に失敗。主な要因は自身の汚職疑惑と、あえて「敵」を作ることで支持者を結束させる手法の破綻だった。

 「党や国を分断し、生み出された憎悪を利用して政権を維持してきた。だが汚職疑惑で求心力が低下し、その手法が通用しなくなった」。ヘブライ大のガイル・タルシル上級講師(政治学)はそう分析する。イスラエル紙ハーレツ(電子版)も5月、「彼は魔術師ではなく、幻想を作り出していただけだった」と断じた。

 国民が幻想から覚めるきっかけとなったのが汚職疑惑だ。司法当局は2019年11月、ネタニヤフ氏を収賄や背任などの罪で起訴したが、現職首相の起訴はイスラエル史上初の不祥事だった。ネタニヤフ氏は国内主要紙の発行人に対し、自身に好意的な報道を求める見返りに、人脈を使ってライバル紙の発行部数を抑えようとした疑惑などが指摘されている。

 この間に次々に反旗を翻したのがかつての側近たちだった。08年にリクードを離党し、現在は右派政党「ヤミナ」を率いるベネット前国防相は「政治を私物化している」とネタニヤフ氏を公然と批判。19年のリクード党首選でネタニヤフ氏に敗れ、その後、右派政党「新たな希望」を結成したサール元内相も「全く信頼できない」と非難した。

 地元記者によると、…

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