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「塀の上へ咲きのぼりけり花(はな)葵(あおい)」は正岡子規(まさおかしき)の句である。この「花葵」とは2~3メートルの高さに直立した茎の周りに、ピンクや赤、白の直径10センチほどの花をつけるタチアオイ、別名ツユアオイのことである▲家の近くを散歩していて例年にもましてこの花の咲きようが気になったのは、首都圏の梅雨入りが遅れていたからだ。江戸時代の随筆などでは梅雨入りとともに咲き始め、茎を咲きのぼる花が頂上に達すると梅雨が明けるといわれた▲ちなみに近所のタチアオイは、西日本や東海地方が記録的に早い梅雨入りとなった5月中旬には咲き始めていた。その後、たくさんの花をつけるのをながめながら、いつまでたっても関東甲信の梅雨入りの声が聞かれなかった今年だ▲すでに梅雨明けのような真夏日もあった首都圏だが、ようやくきのう、昨年より3日、平年よりも7日遅れの梅雨入りとなった。本州から離れた南の海上にある梅雨前線も、今週後半には北上して梅雨らしい雨の日が多くなるという▲日本では梅雨や、農事の目安とされたタチアオイだが、中国からの渡来植物という。明代の書物には日本の使者が「一(いち)丈(じょう)紅(こう)」と呼ばれたこの花を知らなかったことが記されている。当時は室町時代で、一丈紅の名で輸入されたらしい▲「順々に開くでもなき葵哉(かな)」も子規で、確かに下から上へ順ぐりに咲くわけでもない。梅雨入りが県境の東と西で1カ月近くずれた今年だが、不順なのは近年の天気の方だろうといいたげな花たちの表情である。