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小説「無月の譜」

将棋の駒をめぐる探求の物語。失われた名品の駒を求め、ある挫折感を抱えた男が旅に出ます。作・松浦寿輝さん、画・井筒啓之さん。

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小説「無月の譜」

/187 松浦寿輝 画・井筒啓之

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 そう聞いてもなお、竜介には納得できないものが残った。驚いた、感動した、凄(すご)かったという話をいくら聞かされようと、その当の対象が目の前になければ、驚きも感動も共有できはしない。そうですか、という毒にも薬にもならない無力な応答を返すことしかできない。しかしともあれ、曲がりなりにも駒師だった安井さんをこれほどまでに感心させたのだから、そして五十数年後になってもなお彼がこれほど熱を籠(こ)めて誉(ほ)め讃(たた)えるのだから、大叔父の「無月」はよほど大した駒だったに違いない。

 ――表の字は楷書でも、と、ともかく竜介は言ってみた。裏は――飛車の裏字の「龍王」、角の裏字の「龍馬」なんかは、「錦旗(きんき)」とかと同様に、やっぱり草書だったんでしょうか?

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