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小説「無月の譜」

将棋の駒をめぐる探求の物語。失われた名品の駒を求め、ある挫折感を抱えた男が旅に出ます。作・松浦寿輝さん、画・井筒啓之さん。

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小説「無月の譜」

/188 松浦寿輝 画・井筒啓之

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 竜介がそう言うと、安井さんはまた黙りこんでしまった。安井さんの話にはしばしば沈黙が挟まったが、こんどのはあまりに長いので、もうそれきり二度と口を開くつもりはないのではないかと、竜介が心配になってきたほどだった。やがてようやく、安井さんは顔を上げて、

 ――無念だよな、とぽそっと言った。ほんとに無念だ。口惜(くや)しくてたまらない。いや、関自身はそのときは、無念とも何とも思わなかっただろうな。ちょいとばかり戦地に出かけていって、お国のために奉仕して、五体満足、ぴんぴんして帰ってくる気でいたんだから。そして、その後、いよいよ駒師・玄火として、充実した仕事を続けるつもりでいたんだから。

 ――で、大叔父の駒ですが、さっき、燃やしたとか何とか……。

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