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「稲田朋美氏は信用できるのか」LGBT法案棚上げ 中島岳志氏の見方

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中島岳志教授=東京都千代田区で2018年8月3日、梅村直承撮影
中島岳志教授=東京都千代田区で2018年8月3日、梅村直承撮影

 自民党が16日閉会した通常国会への提出を見送った「LGBT理解増進法案」。超党派の議員連盟で合意したものの、「差別は許されない」という文言が入ったことに自民党内で保守派議員が強く反対した。保守派は、差別を許さないという、当然とも思える内容になぜ反対し続けるのか。そして、保守派でありながらLGBT法案の成立に向けて奔走した稲田朋美議員をどう評価すべきか。「この問題の鍵は稲田氏にある」と語る中島岳志・東京工業大教授(日本政治思想)に読み解いてもらった。【藤沢美由紀/デジタル報道センター】

「保守」とは何か

 ――自民党は「LGBT理解増進法案」に慎重な立場の保守派議員に配慮し、会期末まで2週間以上を残して法案提出の見送りを決めました。議論の中では保守派議員からLGBTへの差別発言もありました。考えの違いはあるにしても、困難に直面している当事者たちの訴えと、大きな隔たりを感じます。一連の流れをどう見ていますか。

 ◆これは保守を巡る闘争だと思います。「保守」をどう定義するかによって問題の見え方が違ってきます。

 政治学や思想史では「保守」というのは近代的な起源のある思想潮流で、フランス革命に反対することから生まれました。原点として挙げられるのが、「フランス革命についての省察」という本でフランス革命を批判したイギリスの思想家であり政治家のエドマンド・バークです。バークは、「フランス革命を起こした人たちの人間観は間違っている」と指摘しました。

 どういうことか。近代の大きなくくりでいう左派、つまり革命で進歩した社会を作ろうという人たちは、人間を完成可能な存在とみなしていました。ですから理性的な革命家が描いた設計図の通りに改革を行えば、社会は良くなると考えました。そして、こうした考えに賛同しない「おかしな」考えの人は粛清していきました。これがフランス革命に現れた左派思想です。

 これに対しバークは、「そんなわけはない」と反論した。人間は間違うことのある存在で、どんなに頭が良くても世界を正しく認識できないし、どんなに高潔な人も嫉妬するし、社会は完成しないものであるというのです。ではそんな不完全な社会をどうやって、よりマシに維持していくか。机上の空論より、長い歴史の中で残ってきた良識や集団的な知見に基づいて、時代によって徐々に変わっていくという「漸進的改革」によって維持する、というのがバークの考えです。これが本来の保守思想です。つまり、江戸時代から続く老舗が創業の精神や伝統の技法を守りながら、時代によって味を変えていくのと同じで、「大切なものを守るために変わらないといけない」という考え方です。

 また、保守には人は間違うかもしれないという「懐疑的人間観」があり、その人間観は自分にも向けられます。「自分の認識も誤りがあるかもしれない」と思えば、「他の人の意見も聞いてみよう」と考えます。そしてその言い分に理があれば合意形成していくのが、本来の保守政治です。ですから、保守とリベラルは相反する言葉ととらえられていますが、思想史的に考えると、保守はリベラルなのです。むしろ、歴史的に見て左派の方がリベラルではない。ソ連や北朝鮮、中国といった共産主義国家を見ればわかるように、これまで政治権力を握った共産主義は、「間違い」と見なした人や革命思想に合意しない人を粛清しながら無謬(むびゅう)の正しさに向かってゴールを目指す思想として展開しました。

家父長主義から「わきまえない女」に

 ――「保守はリベラル」なのに、なぜかたくなに意見を変えない保守派がいるのでしょうか。

 ◆保守にも2種類あって、自民党内にはこの二つの対立があるように見えます。

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