ネットで知った父の死の真相 通り魔事件から9年 家族の歩み
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「娘たちには夫が亡くなった事実を、何と話したらよいか分からず濁していましたが、成長した長女、次女はインターネットで検索し、夫の亡くなった理由を知ってしまいました」。これは、通り魔殺人事件の裁判で読み上げられた遺族の陳述書だ。長女たちは、しばらく死の真相を知らずに育った。記者(私)は事件を取材し、裁判も担当した。事件から9年、長女(15)は小学1年生から高校生になった。遺族としての心の痛みを抱え、不登校も経験し、人生と向き合う。家族の思いや長女の今を伝えたい。【三上健太郎/デジタル報道センター】
「大きくなったね」「お父さんに似てきたね」
6月10日午後。東京都新宿区のライブハウス「新宿ロフト」に、髪を後ろで一つに束ね、白いブラウスとチェックのスカートの制服を着た長女の姿があった。出演者たちが、長女に声をかける。この日は父の追悼ライブ。父と親交があったミュージシャンなど総勢16組のアーティストが出演した。新型コロナウイルス感染拡大を受けた緊急事態宣言が出ているため、入場者を制限してライブを開き、オンラインでも配信した。
終了後、ライブの主催者で父と同じバンドで活動したメンバーが、「高校生になりました!」と長女を紹介すると、大きな拍手に包まれた。長女は照れくさそうにお辞儀した。長女は私に「大勢の人が集まってお父さんの話をしたり、お父さんの曲を歌ってくれたり。今も愛されているんだなと感じて、うれしくなりました」とはにかんだ。
私が長女の姿を見たのは1年半前の冬。最高裁の法廷だった。彼女がここに至るまでの道のりは長かった。まずは、事件当時まで時間をさかのぼる。
父は出張先で襲われ、帰らぬ人に
「お父さん、行ってらっしゃい」「気をつけてね」
2012年6月9日。いつもならまだ寝ている土曜日の朝6時過ぎ、小学1年の長女、保育園児の次女、もうすぐ2歳の三女はそろって、出張する父を東京都内の自宅玄関先で見送った。父はためらうように、いったん振り返ってから玄関を出て、車で出発した。父の元気な姿はこれが最後になってしまった。
亡くなったのは…
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