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漫画家ちばてつやさん 60年後の今明かす、あの事件の「真相」

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インタビューに応じるちばてつやさん。背景は代表作「あしたのジョー」の主人公、矢吹丈=東京都練馬区で2020年7月22日、竹内紀臣撮影
インタビューに応じるちばてつやさん。背景は代表作「あしたのジョー」の主人公、矢吹丈=東京都練馬区で2020年7月22日、竹内紀臣撮影

 数々の名作を世に送り出した漫画家のちばてつやさん(82)は今年デビュー65年。今春、短編作品集「あしあと ちばてつや追想短編集」(小学館)を刊行した。旧満州(現中国東北部)からの引き揚げなど自伝的な内容で、戦後日本の歩みが庶民目線でリアルに描かれている。また、漫画家生命の危機となった「ある事件」の真相が明らかにされており、ファンには興味深い一冊だ。本作への思いを聞いた。【屋代尚則/学芸部】

壮絶な体験

 インタビューはオンラインだった。画面に映るちばさんの背景には、代表作「あしたのジョー」の主人公、矢吹丈の大きな絵が見える。ふと、バラックが並ぶ下町で、丈が駆け回る場面を思い出した。

 ちばさんにとって終生忘れられない記憶が、旧満州からの引き揚げ体験だ。収録された「家路1945―2003」で、その様子が克明に描写されている。

 終戦時は父親の仕事のため、兄弟4人を含む一家6人で旧満州の奉天(現在の中国・瀋陽)で暮らしていた。8月15日、日本人の家は現地の中国人から窓ガラスを割られるなどの被害に遭う。日本人たちは故郷を目指すが、現地民の襲撃や病気で多くが命を落とした。それだけではない。手投げ弾で心中する家族、「銃で撃ち殺してくれ」と敗残兵に懇願する人、衰弱する幼子の首に手をかける大人……。

 今作では描かれていないが、履いていた革靴のくぎが足に刺さり、思うように歩けなくなる。「歩けないのは致命的なんです」。このため一家は集団からはぐれてしまう。しかしその後、父の同僚だった中国人の男性と偶然再会。男性は6人全員を長期間かくまってくれた。「父の会社には中国やモンゴル、朝鮮の人もいて、社宅で一緒にご飯を食べるなどして仲良しでした。『日本人だから支配者』なんて気持ちは全くなくて、同じ社員という感覚で付き合っていました」。父の人柄が一家を救ったのだろう。

 また、ちばさんの親は、共に帰還する日本人から「子供を4人も連れて帰るのは無理だ。1人ぐらい(中国人に)売ってはどうか」と声をかけられたこともあったという。「でも、母が気が強いというか、強くならざるを得なかったのかな。『4人の子を必ず守らなければ』と。結局、いろいろな運や縁が重なって、約1年かけて全員帰国できました」

初めての稿料に驚き

 デビューは17歳。意外にも、家に漫画本は一冊もなかったという。「置けば勉強がおろそかになる、と母が思ったのでしょう。『ま』の字を言っただけで怒られましたから」。そんな環境が影響したのか、「漫画家」という仕事さえ知らなかった。雑誌や新聞に掲載されているものは「出版社や新聞社で社員が分担して描いていると思っていました」。

 高校生のとき、新聞で「児童漫画家募集」という広告を見つけ、東京・神田の出版社を訪ねる。「社長がとてもいい人でね。どうしようもないいたずら描きみたいな作品を持っていったのだけれど、『こういうふうに描くんだ』と用紙やインクの使い方を教えてくれたんです」。その指導のお陰で描いた「復讐のせむし男」がデビュー作に。受け取った稿料は1万2351円で、当時の大卒の初任給に匹敵するほど。あまりの高額に目を疑った。

「大事件」の真相とは

 収録された「トモガキ」(前・後編)では、約60年前に起きたある重大アクシデントの一部始終を描いている。

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