オレの仕事を知らない息子へ 末期がんのAV男優が残した自叙伝

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闘病中のAV男優、沢木和也さん。カメラを向けると自然とポーズを取った=東京都内で2021年4月19日、中嶋真希撮影
闘病中のAV男優、沢木和也さん。カメラを向けると自然とポーズを取った=東京都内で2021年4月19日、中嶋真希撮影

 また、息子が野球をする姿を見たい--。末期がんと闘うアダルトビデオ(AV)男優、沢木和也さん(54)の願いだ。昨年4月、食道と下咽頭(かいんとう)のがんを公表。今年に入ってからは治療を断念し、最近は動くこともままならなくなった。この春から高校生になった一人息子の野球の練習を遠くから見守ることが生きる支えだったが、それもかなわない。「残された時間」を意識する中で、沢木さんはAV男優の道を選んだ自身の生き様を一冊の本「伝説のAV男優 沢木和也の『終活』 癌で良かった」(彩図社、1430円)にまとめ、29日に出版する。そこには、息子への「オレみたいに生きて、オレみたいになるな」というメッセージが込められていた。【中嶋真希/デジタル報道センター】

 「時間があとどれくらい(残されている)か」。沢木さんは6月上旬、近況を尋ねた記者に無料通信アプリLINEでこう漏らした。「まだ野球も見に行けず。食事が喉を通らず、栄養は点滴から」とメッセージが届いた。4月に会った時よりもさらに体調が悪化しているようだった。

 沢木さんを初めて取材したのは昨年秋だった。その半年前、既にがんであることを公表していた。

 1988年に21歳でAV男優デビュー。「ナンパもの」と呼ばれるジャンルで、派手な姿で女性をナンパする役どころがはまり、人気を集めた。30年以上、第一線で活躍し、撮影現場に通い続けた。がんに気づいたきっかけも、現場でのことだった。

 昨年2月、珍しくせりふがうまく言えなかった。撮影の合間に「なんか調子悪くてさ」と話すと、その日の共演者で気心が知れた間柄の女優、大島優香さんに、病院へ行くことを強く勧められた。呼吸器科では異常が見つからず、セカンドオピニオンを求めて通ったことのある内科を訪ねると、食道に、「絵に描いたような」がんが見つかった。食道と下咽頭のがんで、骨盤と肺にも転移していた。最も進行した「ステージ4」で、「余命は1~2年」と告げられた。

 衝撃を受けた沢木さんだったが、「黙って消えるのはオレらしくない」と、昨年4月11日、自身のツイッターでがんであることを明かしたのだった。

 <公表します! 食道がん+下咽頭がんにより来週には入院します。食道がんが大分進んでいるので、手術の選択肢は無く化学放射線治療になります。公表する必要は無かったかもしれないけど、黙って消えていくのは無いかな?って思いました。男優復帰は置いといて父親復帰を目指します。息子を見ていたい>

 昨年9月に取材してから半年近くが過ぎ、4月、再び取材を申し込んだ。東京都内の待ち合わせ場所に、沢木さんは自ら車を運転してきた。車を降りると、痩せた体でつえをつきながら、おぼつかない様子で一歩一歩、ゆっくりと歩いた。しかし、カメラを向けるとプロらしく背筋を伸ばし、表情を作って自然とポーズをとった。

 がん発覚後、抗がん剤治療、放射線治療を経て、がん免疫治療薬「オプジーボ」を使った治療を受けた。放射線治療は効き目があったものの、抗がん剤は効かず、オプジーボは最後の望みだった。しかし、昨年12月になって、オプジーボも効果が出ていないことがわかった。

 これまでとは別の抗がん剤を使った治療を受けるか、治療を打ち切るか--。選択を迫られ、沢木さんは…

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