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宣言解除と東京五輪 無観客での開催を求める

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 政府は新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言を、東京都など9都道府県で20日をもって解除する。このうち、7都道府県はまん延防止等重点措置に移行する。

 だが、宣言が解除されても感染状況は依然として厳しい。東京都の新規感染者数の水準は、第3波の宣言が3月に解除された時点を上回っている。

 東京オリンピック・パラリンピックを開催すれば、感染拡大を招く恐れがある。まして観客を入れて人の流れが増えれば、リスクはさらに高くなる。

 コロナ下で大会を開くなら無観客とすべきだ。

 開催を目指す菅義偉首相や大会組織委員会は「安全・安心な大会を実現する」と繰り返してきた。私たちはその根拠を示すよう求めてきたが、いまだに明確ではなく、取り組みは不十分だ。

感染再拡大の懸念強い

 最大の懸念は、東京都を中心とした感染の再拡大だ。英国で確認された変異株が主流となり、さらに感染力が強いとされるインド型の感染者も増えている。繁華街の人出の増加が続いていることも不安材料といえる。

 専門家による政府の分科会は、東京都の解除を了承する際に、再拡大の防止に万全を期すことなど条件を付けた。

 重症化リスクが高い高齢者へのワクチン接種は進んでいるが、決して安心できる状況ではない。

 行動範囲が広い若い世代への接種はこれからで、感染の拡大を抑えることは難しい。英国型の変異株では、40~64歳で重症化しやすい可能性が指摘されていることも心配だ。

 にもかかわらず、組織委は競技会場当たり最大1万人の観客を入れる方向で検討しているという。

 問題なのは会場外も含めた人の流れだ。組織委はチケットの販売データをもとに、夏休みは通学者が減るため、五輪の観客で人出が増えても影響は小さいと分析している。しかし、あまりに楽観的と言わざるを得ない。

 プロ野球やサッカー・Jリーグは制限付きで観客を入れている。政府や組織委はこれを根拠に、五輪でも観客を受け入れる方針を打ち出そうとしている。

 だが、五輪は規模が大きく、多くの競技を短期間に集中して実施する。全国から観客が集まれば、移動や宿泊、飲食で人の流れは確実に増す。

 国立感染症研究所の試算では、インド型変異株の影響が小さかったとしても、大会期間中の7月後半から8月前半に感染が再拡大し、緊急事態宣言の再発令が必要となる可能性があるという。

 選手や関係者にはワクチン接種や度重なるウイルス検査のほか、隔離した環境での行動制限などの感染対策が実施される。しかし、観客向けの対策はまだ決まっていない。

専門知を尊重すべきだ

 無観客なら人の流れを抑制でき、観戦時の熱中症などで医療にかかる負担も軽くなる。観客の対応に当たる警備やボランティアを削減することもできる。

 チケット収入は失われても、大会運営上は管理しやすくなり、メリットは大きい。

 分科会の尾身茂会長ら専門家の有志は、無観客での開催が最もリスクが少ないと指摘する。観客を入れる場合でも政府の大規模イベントの制限基準より人数を減らすべきだとし、政府と組織委に見解を提出する方針だ。

 無観客での開催になれば、社会とのつながりを欠くとの意見もある。しかし、会場での一体感が損なわれても、五輪やパラリンピックの意義は失われるものではないと考える。

 コロナ下の不自由な環境の中、努力を重ねてきた競技者が各国から集まり、競い合う。その姿を人々がテレビやオンラインでたたえ、価値を共有することはできるはずだ。

 この1年間、バーチャル映像などを使った新しいスポーツ観戦の方式が開発された。そうした技術を活用する機会にもなる。

 コロナの影響で予選さえ開けない時期もあった。だが、今月末にはすべての五輪出場枠が確定する見通しだ。

 選手たちに舞台を用意するためには、感染が広がるリスクを最小化する努力が必要だ。専門家たちの意見を尊重して対策に生かさなければ、国民の安全と大会の開催を両立することはできない。

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