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菅義偉政権として初の「骨太の方針」が決まった。経済財政政策の基本的な方向性を示すものだ。
長引く新型コロナウイルス禍で国民生活は大きな打撃を受けた。立て直しに向け、将来あるべき社会の姿をどう描くかが問われた。
しかし、国民の不安に応える展望が示されたとは言えない。
前面に押し出したのは、経済成長を優先する姿勢である。
「強い経済」を掲げて、脱炭素化、デジタル化、地方創生、少子化対策を全て「ポストコロナの成長の原動力」と位置づけた。国内総生産(GDP)を戦後最大の規模へ大幅に増やすという安倍晋三前政権の目標も踏襲した。
衆院選を控え、経済活動を早く元に戻し、豊かな国家を目指す方針をアピールしたいのだろう。
だが国民の不安が高まったのは、働く人の約4割を占める非正規労働者の多くが職を失い、生活に窮したからだ。効率優先で非正規労働者を増やしたアベノミクスの継承では問題を解決できない。
社会も大きく変化し、昨年生まれた子どもの数は過去最少になった。少子化対策を進めても、人口減少を食い止めるのは難しく、右肩上がりの成長は見込めない。
求められているのは、政策の抜本的な転換である。深刻な格差を抱えたままでは、経済の健全な発展はおぼつかない。成長頼みに陥らず、所得再分配を通じた格差の是正に本格的に取り組む時だ。
危機的な借金財政から脱する道筋も明示されていない。それどころか、2025年度の健全化目標を延期する可能性すら示唆した。
コロナ禍に伴う経済対策で借金は急増した。だが骨太の方針は、地方創生を盾に整備新幹線など旧来型の大型事業を推進する必要性を強調した。衆院選をにらんだ与党の歳出拡大論が背景にある。
米欧で大企業や富裕層に増税する動きがあることは紹介しているが、政府として財源をどのように確保するかには言及していない。
健全化を先送りすると、将来へのつけ回しが膨らむ。超高齢社会を乗り切れるのか、国民の不安は増すばかりだろう。
コロナ下で菅首相は「国民の暮らしを守り抜く」と繰り返してきた。不安の解消につながる展望をきちんと示す責任がある。