連載

アンコール

あの感動の調べをもう一度。注目公演の模様を鑑賞の達人がライブ感たっぷりに再現します。

連載一覧

アンコール

在京オーケストラ5月公演から ~③読売日本交響楽団

  • ブックマーク
  • メール
  • 印刷
昨年の読響との公演ではグバイドゥーリナの「ペスト流行時の酒宴」を初演するなど、プログラミングにも毎回こだわりを見せる下野竜也 (C) 読売日本交響楽団
昨年の読響との公演ではグバイドゥーリナの「ペスト流行時の酒宴」を初演するなど、プログラミングにも毎回こだわりを見せる下野竜也 (C) 読売日本交響楽団

 在京オーケストラの5月の公演リポート3回目は読売日本交響楽団の名曲シリーズ。かつて読響の首席客演指揮者を務めていた下野竜也が約1年4カ月ぶりに同オケの指揮台に立ち、藤田真央をソリストに迎えてラフマニノフのビアノ協奏曲第2番、ストラヴィンスキーのバレエ組曲「火の鳥」などを披露した。(宮嶋 極)

 下野は長引くコロナ禍で国外からの入国制限などが繰り返され海外アーティストの来日が激減した中で、その穴を埋めるべく大活躍している日本人音楽家の代表格である。それは彼の指揮者としての力量の高さと見識の広さによるものであることがこの日の演奏会からも伝わってきた。

 まず注目したのは彼のプログラミングの妙である。この日は名曲シリーズということで、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番と「火の鳥」という多くの人になじみの深い作品を軸にしながら、この2曲の前にそれぞれバーバーとハンナ・ケンドールという20世紀以降に活躍した作曲家の作品を演奏する。聴衆が聴きたい曲と下野がその魅力を紹介したい作品を組み合わせる巧みさは今回に限ったものではない。これに先立つ21日に開催された読響定期でも20世紀前半にチェコで活躍したマルティヌーの2曲の間にモーツァルトのピアノ協奏曲を挟むなど、下野がありきたりのプログラムを組むことはほとんどなく、日ごろから幅広く作品を研究し理解を深めていることが窺える。

 バトンテクニックの確かさについても触れておこう。日本初演となったハンナ・ケンドールの「スパーク・キャッチャーズ」は目まぐるしく変化するリズムが特徴的な曲だが、下野は終始よどみなく確信に満ちた指揮ぶりでオーケストラをリードしていく。客席から見ていてもその動作は分かりやすくオケも安心してついていけるものであった。

ヴァイグレ、下野らの指揮で読響とも共演を重ねる藤田真央 (C)読売日本交響楽団
ヴァイグレ、下野らの指揮で読響とも共演を重ねる藤田真央 (C)読売日本交響楽団

 一方、ラフマニノフの協奏曲は繊細でデリケートなタッチの藤田のピアノに読響メンバーが温かいまなざしをもって対話を繰り広げているかのような演奏となった。藤田は今年1月にもセバスティアン・ヴァイグレの指揮で読響とラフマニノフの第3番の協奏曲を弾いているが、2番の方が彼のキャラクターによりマッチしているように感じた。盛大な喝采に応えてアンコールとしてモーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」(リスト編曲)も演奏された。ここでも繊細なタッチが美しかった。

 メインの「火の鳥」は1919年版。全体としては正攻法のアプローチだったが、読響の各プレイヤーのレベルの高さが如実に伝わってくる演奏に仕上げられていた。読響のサウンドは相変わらず透明度が高くクリアなものであり、その美点を生かすように各パートの音量バランスを細やかに整えた下野の響きの作り方も見事であった。

公演データ

【読売日本交響楽団 第642回名曲シリーズ】

5月25日(火)19:00 サントリーホール

指揮:下野 竜也

ピアノ:藤田 真央

コンサートマスター:長原 幸太

バーバー:序曲「悪口学校」Op.5

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18

ハンナ・ケンドール:スパーク・キャッチャーズ(日本初演)

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

あわせて読みたい

この記事の特集・連載
すべて見る

注目の特集