連載

社説

社説は日々、論説委員が議論を交わして練り上げます。出来事のふり返りにも活用してください。

連載一覧

社説

夫婦別姓再び認めず 時代に背を向けた最高裁

  • ブックマーク
  • メール
  • 印刷

 個人の生き方や家族のあり方が多様化している。そうした時代の変化に逆行する司法判断だ。

 夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定について、最高裁大法廷が憲法に違反しないと判断した。事実婚のカップル3組が、別姓で出した婚姻届を受理するよう求めた裁判での決定である。

 最高裁の合憲判断は2015年の判決に続いて2回目だ。15人の裁判官全員が審理に加わる大法廷が、同内容の訴えについて同じ憲法判断をするのは異例である。

 今回の決定は、15年の判決を踏襲し、新たな考え方は示さなかった。その後の社会の変化や国民意識の変化を踏まえても、変更する必要はないと結論づけた。

 夫婦のどちらかが姓を変えなければならないのは、人権に関わる問題だ。にもかかわらず、最高裁は正面から憲法判断することを避けた。

 「憲法の番人」としての役割を放棄したに等しいと言わざるを得ない。

憲法を守る役割の放棄

 15年の判決が夫婦同姓の義務づけを合憲とした理由は「社会の基礎となる家族の呼称として、姓を一つに定めることには合理性がある」というものだ。

 しかし、家族の形はさまざまである。事実婚の人が増え、離婚や再婚も珍しくなくなっている。17年の内閣府の調査では、姓が違っても家族の一体感に影響はないと考える人が64%に上る。

 一方で女性の社会進出が進み、姓が変わることの弊害は大きくなっている。それまでの経歴や業績が周囲に認識されにくくなり、仕事に支障が生じている。

 15年時点と比べ、結婚時に同姓か別姓か選べる選択的夫婦別姓制度の導入に賛成する人が増えている。毎日新聞などの今年3月の世論調査では賛成が51%となり、反対の23%を大きく上回った。

 各地の地方議会でも、選択的夫婦別姓の法制化を求める意見書の採択が相次いでいる。

 最高裁の今回の決定は、こうした現実を直視しないものだ。

 見過ごせないのは、夫婦の96%が夫の姓を選んでいる現実である。女性が姓の変更を迫られるケースがほとんどという状況は、憲法24条が定める両性の平等に反している。

 「夫が外で働き、妻は家を守るもの」という旧来の固定観念が解消されない一因にもなっている。

 15人の裁判官のうち、4人は違憲だと主張した。うち2人は、夫婦別姓を認めない民法などの規定について「婚姻の自由を求める憲法24条の趣旨に反し、不当な国家介入に当たる」と指摘した。

 多くの職場で、結婚前の姓を通称として使って働くことができるようになった。住民票やマイナンバーカード、運転免許証にも旧姓の併記が認められている。

 とはいえ、通称の使用は所属組織や契約相手の意向次第で、小手先の対処では限界がある。

 そもそも氏名は個人として尊重されるための基礎となる。姓が変わることで、自分が自分でなくなるとの思いを抱く人もいる。

国会が自ら動くべきだ

 日本以外に夫婦同姓を義務づける国はないという。国連の女性差別撤廃委員会は繰り返し、是正を勧告している。

 法相の諮問機関である法制審議会は、1996年に選択的夫婦別姓導入を答申しているが、四半世紀にわたって、たなざらしにされている。

 15年の判決が国会で検討するよう求めたものの、事態は動かなかった。そのため、司法の役割が期待されていた。

 ところが、最高裁は今回も踏み込んだ判断をせず、「国会で論ぜられるべき事柄にほかならない」と再び対応を委ねてしまった。

 そうであれば、国会が動くほかない。公明党や野党の多くは選択的夫婦別姓の導入に賛成している。鍵を握るのは自民党だ。

 自民党内では昨秋から、若手議員らを中心に導入を求める動きが広がり始めた。今年3月以降、推進派と慎重派の議員連盟が設立され、議論が活発化していた。

 だが、「伝統的な家族の形が崩れる」と保守派の反対が根強く、党としての結論は衆院選後に先送りされた。今回の最高裁の判断によって、導入論議にブレーキがかかる懸念がある。

 どの姓を名乗るのかは、個人の生き方に関わる問題である。議論を止めることは許されない。

あわせて読みたい

この記事の特集・連載
すべて見る

注目の特集