特集

今週の本棚

「面白い!読ませる!」と好評の読書欄。魅力ある評者が次々と登場し、独自に選んだ本をたっぷりの分量で紹介。

特集一覧

今週の本棚

本村凌二・評 『草のみずみずしさ 感情と自然の文化史』=アラン・コルバン著、小倉孝誠、綾部麻美・訳

  • ブックマーク
  • メール
  • 印刷
『草のみずみずしさ 感情と自然の文化史』
『草のみずみずしさ 感情と自然の文化史』

 (藤原書店・2970円)

足元の自然、育んできた情動

 古代ローマの詩人ウェルギリウスの友人は、恋の深傷(ふかで)を癒すべく牧歌の鳴り響くアルカディアの草原に横たわっていた。詩人の心のなかでは、アルカディアは樹木や草花に満ちた理想郷なのだ。

 古来、緑あふれる草原には人間の心を和ませる魅力があった。とりわけ、幼少期の体験は人々に親しみのある環境を思いおこさせる。遊びたわむれていた牧草地や小川のほとりがあり、草に酔ってしまいそうな記憶が残る。「草の場」は始原の場であると言えるのだ。

 やがて子どもと草の世界が分離されるという出来事は、感情の歴史を転換し、郷愁の構図を錯乱させる。始原の体験の濃淡から、世代間の隔絶が生まれ、深まることにもなる。農業生活が縮小され、牧草地での感覚が忘れ去られる。18世紀以来、一方で手入れされた草地が称賛され、他方で雑草が賛美されるという対立関係が目につくようになる。副題に「感情と自然の文化史」とあるのは、まさしく「草の歴史」を人類史のなかで語ろうと…

この記事は有料記事です。

残り916文字(全文1356文字)

次に読みたい

あわせて読みたい

この記事の特集・連載
すべて見る

注目の特集