便利な登山アプリが希少植物の被害招く 写真で自生場所特定され

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2012年に瀬戸口浩彰教授が確認したホシザキカンアオイ。種の保存法で採取などが禁止されているが、同じ場所を16年に訪れると1個体も残っていなかったという=京都大大学院地球環境学堂・同教授提供 拡大
2012年に瀬戸口浩彰教授が確認したホシザキカンアオイ。種の保存法で採取などが禁止されているが、同じ場所を16年に訪れると1個体も残っていなかったという=京都大大学院地球環境学堂・同教授提供

 近年の登山ブームの裏で、山中に自生する希少な植物が荒らされる被害が増えている。その背景に、スマートフォンによる気軽な撮影・投稿があるという。いったい何が起きているのか。

 「ここ数年で希少植物目当ての登山者が多くなった。踏み荒らされてしまった惨状も見たことがある」。登山歴約30年という和歌山市の会社員男性(65)はため息をつく。月に3回ほど近畿地方を中心に山を歩き、自然を感じることが楽しみだ。約5年前からルートや写真を共有できる登山者向けのアプリも利用。だが、そこで気になったのが、希少植物の写真も多く掲載されていたことだった。

利用者の歩いたルートと写真を撮影した場所が分かる仕組みの登山アプリ「YAMAP」=スクリーンショットより2021年6月23日、益川量平撮影 拡大
利用者の歩いたルートと写真を撮影した場所が分かる仕組みの登山アプリ「YAMAP」=スクリーンショットより2021年6月23日、益川量平撮影

売買目的で採取の恐れも

 男性が利用するのは、それぞれの登山記録を登録できるアプリ「YAMAP(ヤマップ)」と「ヤマレコ」だ。ヤマップは2013年、ヤマレコは05年にサービスを開始。いずれも全地球測位システム(GPS)で得た位置情報を地図に落とし込み、登山時に地図上の居場所を把握できる。自ら歩いたルートや撮影した写真は位置情報つきで不特定多数の利用者らと共有が可能。それぞれ有料版と無料版があり、料金の支払いにより入手できる地図の枚数を増やせるなどの特典がある。各運営会社によると、アプリのダウンロード数は、ヤマップが6月現在で250万、ヤマレコが20年10月現在50万をそれぞれ突破している。

 その結果、インターネット上には位置情報が分かる希少植物の写真が氾濫するようになった。中には高く売買されるものもあり、業者が写真の情報をもとに集まって採取する恐れもある。

違法採取により個体数が激減しているというスルガジョウロウホトトギス=瀬戸口浩彰・京都大大学院地球環境学堂教授提供 拡大
違法採取により個体数が激減しているというスルガジョウロウホトトギス=瀬戸口浩彰・京都大大学院地球環境学堂教授提供

 京都大大学院地球環境学堂の瀬戸口浩彰教授(植物分類学)によると、実際に自生地が根こそぎ採取された跡を見つけて調べると、インターネット上に場所が掲載されていたという。山梨県内で数年前、「種の保存法」で採取などが禁止されているユリ科の多年草「スルガジョウロウホトトギス」の自生地を地元の愛好家らの案内で調査した際は、着生していた根のコケごとはぎ取られた跡が複数あった。「強風でコケごと取れることはない。素手で丁寧に掘り出されていた。ネットには正確な位置を記録した情報があり、それをもとに誰かが採取した可能性が高い」と瀬戸口教授は語る。

撮影場所掲載の自粛呼び掛けに限界も

 ヤマップの運営会社(福岡市)は利用者による希少植物の位置情報掲載を認知し、会社のサイトで自粛を呼び掛け、「土地が荒らされたり盗掘などの危機にさらされたりする可能性がある」と警告。希少植物の写真の掲載が確認された場合は投稿者に撮影場所を隠すよう依頼しているという。ただ、利用者数が多くて把握はし切れないといい、担当者は「画像解析する人工知能(AI)の技術を使い、希少植物を投稿できないようにすることも検討している」と話す。

 一方で、ヤマレコでは自粛の呼び掛けなどの対応をしていない。運営会社(長野県松本市)の担当者によると、利用者からの指摘で問題は把握し、社内で議論したが、「呼び掛けたところで掲載の自粛につながるのか」との声が強かったという。「運営者側でのチェックもしておらず、掲載する利用者の責任としている」と話した。

ビデオ会議システム「Zoom」で取材に応じる京都大の瀬戸口浩彰教授=大阪市中央区で2021年6月24日午前11時40分、益川量平撮影 拡大
ビデオ会議システム「Zoom」で取材に応じる京都大の瀬戸口浩彰教授=大阪市中央区で2021年6月24日午前11時40分、益川量平撮影

専門家「運用や関連法令の見直しを」

 環境省によると、21年6月現在、国内で生息・生育する395種が種の保存法で採取や譲渡の禁止対象に指定され、約半数の194種が植物だ。同法の規制に違反すると、個人は5年以下の懲役または500万円以下、法人は1億円以下の罰金が科される。

 警察庁の統計では、動物も含めた同法違反での検挙件数は10年には15件だったが、19年は149件に増加。環境省の担当者は「希少植物の種類は年々増加し、インターネットが違法採取や譲渡のための情報収集源となっている可能性は大いにある。法律で生育場所の明示に関する規制はないが、違法採取につながる恐れがあるので控えてほしい」と呼び掛ける。

 ヤマップやヤマレコについて瀬戸口教授は「登山計画を立てる上で他の人の軌跡を参考にでき、非常に便利。多くの人が安全に登山を楽しめるようになったと思う」と評価する。だが、位置情報を付けた希少植物の写真に関しては「簡単なため、悪意なく掲載してしまう人もいるだろうが、それを見て持ち帰る人が集まれば被害を招いたことになる」と指摘。「掲載制限を含めた運用や、関連法令の見直しが必要になっているのではないか」と話している。【益川量平】

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