「何度も死にたいと思った」重度障害者が分身ロボットで働く理由

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店に入ると、出迎えてくれるオリヒメD。会話をすることもできる=東京都中央区日本橋本町3で2021年6月24日午後4時28分、生野由佳撮影
店に入ると、出迎えてくれるオリヒメD。会話をすることもできる=東京都中央区日本橋本町3で2021年6月24日午後4時28分、生野由佳撮影

 「自分には生きる価値がない」。そんな絶望を経験しながら、自分の居場所を見つけた人たちがいる。6月下旬にオープンした「分身ロボットカフェ」は、難病や重度障害などで外出が困難な人たちが、ロボットを遠隔操作して接客する店だ。20年寝たきりの秘書との夢をかなえて店を開くロボット研究者の思いを取材した記者は、実際どんな人が何のために働いているのか気になっていた。ロボットを操作する「パイロット」と呼ばれる重度障害の男性スタッフ2人に密着すると、挫折や孤独を越えて、“分身”を使って働く深い理由が見えてきた。【生野由佳/デジタル報道センター】

50人のパイロットがシフト制で接客

 6月24日午後、東京・日本橋にオープンしたばかりの「分身ロボットカフェDAWNver.β(ドーンバージョンベータ)」を訪れた。ここでは約50人のパイロットが、シフト制で卓上型ロボット「OriHime」(オリヒメ)と可動式ロボット「OriHime-D」(オリヒメD)を遠隔操作して働いている。カフェは、オリヒメを開発した「オリィ研究所」所長の吉藤健太朗さん(33)が、重度障害の秘書の男性と考案し、具体化したものであることは以前、紹介した(https://mainichi.jp/articles/20210508/k00/00m/040/107000c)。「孤独の解消」をミッションに掲げる吉藤さんは、「寝たきりになっても分身ロボットを使って働くことを、社会の選択肢にしたい」と熱く語っていた。だからこそ、分身ロボットで働く人たちの話を聞いてみたかった。

 密着したのは、東京都の五十嵐裕由(ひろゆき)さん(49)と、桑原章太さん(39)。五十嵐さんはアカウント名「カーリー:OriHimeパイロット」(@jbm36832)、桑原さんはアカウント名「くわはら@人工呼吸器」(@kuwaNPPV)でそれぞれ日々の出来事や思いをツイッターでつづっている。

 「ようこそいらっしゃいました。こんにちは」。店頭に立つオリヒメDが出迎えてくれた。会話も楽しめる。「どちらから勤務されているのですか」。記者が尋ねると「大阪からです」と明るい女性の声が返ってきた。

 続く食事エリアでは、テーブル上のオリヒメがタブレットでメニューを紹介し、注文を受け付ける。4人グループの接客を始めたのは、五十嵐さんだ。過去の実験店舗で働いた経験はなく初心者マークを付けていたが、応対はスムーズだ。オリヒメの手を上げたり下げたりして相づちを打ちながらメニューを紹介していく。「オリジナルのスパイスカレーです。辛くはなく、誰でも食べやすいですよ」「バーガーのローストビーフは増量が可能です」

 注文はお客さんの方に顔を向け、1人ずつ聞き取る。「ご飯の量は大盛りか小盛りか選べますよ」と提案したり、ドリンクメニューでは「コーラ」を注文したお客さんに「僕も大好きです」と応じたり。顔が逆の方向を向いてしまい「すみません」と笑いも誘った。開店に向けたクラウドファンディングに協力したという女性客は「ロボットとあまり意識せず、違和感なく注文ができました。オリヒメの動きがかわいいですね」と楽しんでいた。数分後、別のパイロットが遠隔操作するオリヒメDが注文したドリンクを運んできた。

 五十嵐さんは現在、車いす生活を送るが、約4年前までは障害はなかった。パイロットには五十嵐さんのような「中途障害者」も多い。

 「体は変わっても、社会の役に立ちたいという気持ちは何も変わっていないのです」…

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