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「I do have a voice」。私には声がある。よりよい社会をつくるため、この声を使いたい。昼下がりの静かな教室によく通る声が響いた。東京都のインターナショナルスクール、クリスチャン・アカデミー・イン・ジャパンの高等部3年生の宮島ヨハナさん(18)が、後輩や教師たちに英語で語りかけた。国会に提出された出入国管理及び難民認定法(入管法)改正案に反対する集会を自ら企画し、声を上げた。反対の声は波紋のように広がり、法案は事実上の廃案に追い込まれた。国会議事堂に向かって声を上げた高校3年生に密着取材した。【菅野蘭/デジタル報道センター】
4月20日午後、長袖が暑苦しいほどの快晴だった。宮島さんは、学校を早退して1人で電車に乗り、国会前へ向かっていた。国会前の歩道では入管法改正案に抗議するシットイン(座り込み)が繰り広げられていた。
入管・難民問題は高校の卒業課題に自分で選んだトピックだ。課題の一環として国会前の活動に参加したいと指導教員に相談すると、自宅学習などで早退分を埋め合わせることを条件に許可された。電車に乗っていた約1時間。海外のニュースで見るような激しい抗議活動のイメージが頭に浮かんで緊張した。
到着すると、たくさんの人が歩道に並んでいた。思い思いの抗議メッセージを持って平和的に座っている。少し安心したが、宮島さんに知り合いはいない。居場所を探して歩き回っていた時、小さな椅子に腰掛ける同世代の女性参加者と目が合った。
あれっ。その女性は、宮島さんを友人と間違えたのか「わーっ」とうれしそうに歓声を上げ、手を振ってきた。近寄ってこう声を掛けてみた。
「はじめましてですね」。互いに自己紹介した。上智大学4年の川村ひなのさん(23)。同じように初参加だった。
宮島さんは用意してきた「#入管法改悪反対」と手書きした黄色の模造紙を広げて持ち、川村さんの隣に座った。
政府は法案提出の理由を、国外退去処分を受けた外国人が入管施設に長期収容される事態を解消するためなどと説明していた。しかし、難民認定の申請が2回却下された人の送還を可能にするなど、入管の権限強化も盛り込まれていた。
川村さんは大学のゼミで改正案に問題意識を持ったという。「実際に抗議の場に足を運ぶことに意味を感じる」と川村さん。同じような経緯で国会前に来た2人は意気投合した。
「自分でも抗議のアクションをできたらいいですよね」。宮島さんがつぶやくと、川村さんはこうアドバイスした。「自分だったら、どうすればできるか、実際に抗議行動を主催している人に聞いてみるかな」
このシットインの主催団体であるNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)は法案審議の状況確認や、参加者への呼びかけなど運営事務を担っていた。ちょうど事務局次長の安藤真起子さん(47)と代表理事の鳥井一平さんが会話しているところへ宮島さんがやってきた。
「シットインに来た高校生なんですけど、他にも参加したい友だちがいます。先生にも参加してもらいたいので、週末や夕方、夜の時間帯に開催してもらえませんか」。シットインは国会審議にあわせて平日の昼間に開かれていた。
安藤さんは「一般の参加者で、しかも高校生から提案を受けたことは想定外でびっくりしました。その場では『どうかな』と返事をしましたが、好意的に受け止めましたし、彼女の思いを大事にしたいなと思いました」と笑顔で振り返る。
その日は提案しただけだったが、宮島さんは手応えを感じていた。画像共有アプリ「インスタグラム」に、シットインの写真10枚を投稿し、コメントを書いた。「今日、このシットインに関わることができて本当によかった。もっと同世代の若者に、この問題について知ってほしい」
宮島さんから提案された移住連はすぐに他の協力団体と協議したという。連休前日の4月28日夜の開催を考えたが、すでに宮島さんは独自に準備を始めていた。学校の指導教員に「自分でやってみたら」とアドバイスされたのだった。
抗議活動の案内を日本語と英語で作成し、ツイッターで呼びかけたり、報道各社に案内文を送ったりしてみた。安藤さんは「28日の夜に調整できたのでヨハナさんに連絡しようと思っていたら、彼女から『4月30日にアクションをすることにしたので、移住連にもぜひ参加してもらいたい』と逆に誘われて驚きました。できるかなと不安にも思いましたが、彼女の率直な思いから出てくるアクションをサポートしたいなと思いましたね」と話す。
宮島さんは移住連側が企画した28日夜のシットインにも参加し、川村さんに手助けしてもらいながら自分で企画した30日の抗議活動の案内を配って回った。用意してきた数十枚のチラシでは足りず、チラシを参加者のスマートフォンで撮影してもらって、拡散をお願いして歩いた。移住連の配慮でマイクを持ち、スピーチもさせてもらった。
宮島さんは4月28日の日記に、日本語と英語で次のように感動を記している。「いまハマっているマーチン・ルーサー・キング(牧師の言葉)を引用してスピーチした」「予想外に涙ぐんでしまった」「自分の企画もたくさんのメディアから注目を集めている。神様ありがとうございます」
仮放免の女性から英語を教わる
宮島さんは、牧師の父牧人さん(49)とインド出身の母アトゥーさん(48)の長女として生まれた。ヨハナとは「神は恵み深い」を意味するヘブライ語の発音に由来する。宮島さんは「神様に愛され、神様と隣人を愛する人になってほしいという思いを込めたと聞いています。クリスチャンとして、『神様の恵み』という名前を持っていることはうれしいです」と話す。
牧人さんは、2009年から入国管理局に収容されている外国人と面会し、一時的に収容を解かれた「仮放免」の際の身元保証人にもなっている。自宅を訪れた外国人が、牧人さんのことを「お父さん」と慕う様子を幼い頃から見てきた。自国の料理を振る舞ってくれたり、子供の誕生日会に招いてくれたりする人もいた。
外国人から勉強を教わることもあった。小学6年生のころ、インターナショナルスクールに入るため、カメルーン出身のレリンディス・マイさんから数カ月間英語を教わった。…
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