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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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1964年の東京オリンピックは「1兆円五輪」と呼ばれた…

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 1964年の東京オリンピックは「1兆円五輪」と呼ばれた。大会に合わせて建設された東海道新幹線や首都高速道路などの費用が大半を占め、国家予算の3分の1にも達した▲推進したのは池田勇人元首相だ。高度成長に陰りが生じ、所得倍増計画の実現が怪しくなったころである。池田は関係者を集め、大号令をかけた。「首都高速と新幹線はなにがなんでもオリンピックに間に合わせろ。政府も全力で後押しする!」(幸田真音著「この日のために」)。経済は勢いを取り戻し「オリンピック景気」と命名された▲時の政権は五輪を景気浮揚に利用する。今回も、安倍晋三前首相はアベノミクス三本の矢に続く「第四の矢」とアピールしていた。東京都は全国で32兆円もの経済効果が見込めると強調した▲コロナ下の今、景気を大きく押し上げるとの見方はすっかり消えた。政府も最近の経済見通しでは五輪に全く触れていない。むしろ課題は損失をどれだけ抑えるかだ▲野村総研の試算では、無観客にして失われる経済効果は1400億円余だが、観客が半分の場合と大差ない。かえって観客を入れると、再拡大している感染を一段と深刻にする恐れがある。緊急事態宣言に追い込まれれば、損失は一気に3兆~6兆円に膨らむという。経済的にも無観客が合理的だろう▲64年の五輪直後は大盤振る舞いの反動で不況に陥り倒産が相次いだ。今回は観客にこだわって景気をさらに悪化させるのか。苦しむのはコロナ禍で困窮した国民である。

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