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田中優子の江戸から見ると

法政大総長・田中優子さんのコラム。江戸から見る「東京」を、ものや人、風景から語ります。

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田中優子の江戸から見ると

短冊に書く願いは

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 今年の7月7日は旧暦では5月28日で、まだ皐月(さつき)である。もちろん江戸時代では七夕ではなかった。旧暦の七夕は今年の場合、新暦の8月14日になる。

 まだ七夕ではないと言いながら、短冊が気になる。七夕の短冊には和歌や学問や裁縫の上達を願う言葉を書き入れ、笹(ささ)の葉に結んだのである。特に七夕の織り姫は、江戸時代の経済の中心に位置した布生産に関わりが深い。織物は主に女性の仕事とされ、日本全国の農村で盛んだった。「うち織り」と呼ばれる家族のための織りだけでなく、呉服屋からの買い付けに応じる地域もあった。そのような地域では、織物技術に優れた女性たちがかなりの現金収入を得たのである。

 裁縫も単に家事の一部ではない。私の父方の祖母は早くに夫を亡くし、父を含め5人の子供を裁縫で育てた。つまり仕事だったのである。裁縫の技能や、着物をほどいて洗濯し縫い直す洗い張りの技術を持っていると、それによって収入を得ることができたのだ。個人客から頼まれるだけでなく、呉服屋や古着屋からの注文もある。

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