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宣言下で五輪開催へ 感染爆発防ぐ対策見えぬ

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 政府は新型コロナウイルスの感染対策として、東京都に4回目の緊急事態宣言を出すことを決めた。期間は8月22日までだ。東京オリンピックは宣言下で開催される見通しになった。

 6月に解除してから、わずか3週間で再宣言に追い込まれた。新規感染者数の減少が不十分だったことから、専門家は早期に感染が再拡大する可能性を指摘していた。こうした事態を招いた政府の責任は重い。

 都内の新規感染者数は約2カ月ぶりに900人を超えた。ワクチン接種が進む高齢者の感染は抑えられているものの、40~50代を中心に入院者数や重症者数が増えている。

 医療体制の逼迫(ひっぱく)が危惧される中、五輪を開催することに伴い、世界各国から数万人が来日する。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長が「今の状況で(開催は)普通はない」と語ったほどの異例の事態だ。

遅れる経済・生活支援

 国民に負担を強いる宣言下で五輪を開催するにもかかわらず、政府はその理由を明確に説明していない。感染爆発を防ぐ十分な手立てが講じられているかどうかも疑問だ。

 専門家の間には、宣言の効果が十分に出なくなっているのではないかという懸念がある。

 理由の一つは、インドで初めて確認された感染力が強い変異株の広がりだ。ワクチン接種が進んだ英国で、感染が再拡大した要因とされている。東京など首都圏の1都3県では感染者の3割がこの変異株との推計がある。

 国民や事業者の「自粛疲れ」も指摘されている。1月以来、宣言やまん延防止等重点措置が続き、人出を抑えにくくなっている。政府は営業時間の短縮などを要請してきたが、事業者への協力金や生活困窮者への給付金は支給が遅れ、負担感は増す一方だ。

 政府は7月の4連休やお盆期間中の移動を控えるよう、国民に呼び掛けている。巨大イベントである五輪を開催することは、これに逆行するメッセージとなる。

 にもかかわらず、大会組織委員会は、観客を入れる方向で土壇場まで調整を続けていた。

 当初は「収容定員の50%以内で最大1万人」の予定だったが、「50%以内で最大5000人」と変更し、チケットの再抽選を行う検討を進めていたという。

 だが、宣言発令が決まったことで抜本的な見直しを迫られた。国民生活が宣言下で制約される中、五輪会場に観客を入れて祝祭ムードを演出することに、社会の理解が得られるはずはない。

 観客制限の判断が開幕直前まで遅れたのは大きな失態と言わざるを得ない。責任の所在を明確にせず、政府や組織委が場当たり的な対応を続けてきた結果だ。

全面無観客が大前提だ

 東京都以外では、北海道、宮城、福島、茨城、千葉、埼玉、神奈川、山梨、静岡の1道8県で競技が実施される。

 これらの地域は宣言の対象から外れているが、今後、感染が拡大するリスクがある。国民の安全を最優先するのであれば、「全面無観客」が大前提となる。

 会場入りする大会関係者は、観客とは別枠扱いとされている。国際競技団体、スポンサーなどの関係者が該当するが、運営に携わらない人も多い。

 競技会場に入るのは、選手やコーチ、審判、運営関係者など試合を行うために必要な最小限の人数で十分ではないか。開閉会式でも多くの関係者がオンラインで参加することは可能なはずだ。

 学校単位での児童・生徒の観戦も取りやめるべきだ。人の流れを減らすためには、大会中の深夜に鉄道各社が予定している臨時列車の運行は中止が望ましい。

 選手村での感染対策も大きな課題だ。13日には正式オープンし、各国選手団が次々と入ってくる。空港での水際対策に加え、入国後の行動管理が不可欠だ。

 今後、感染の急拡大で医療体制が崩壊するような最悪の事態も起こりうる。主催者は状況に応じ、大会の中止や競技の打ち切りといった選択肢も想定しておく必要がある。

 23日の開会式まであと2週間しかない。菅義偉首相は「国民の安全安心を最優先する」と繰り返し強調している。そうであるならば、感染爆発を防ぐ対策を徹底しなければならない。

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