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カルチャー各分野をどっぷり取材している学芸部の担当記者が、とっておきの話を報告します。インタビューの詳報、記者会見の裏話、作品やイベントの論評など、さまざまな手法で、カルチャー分野の話題の現象を記者の視点でお伝えします。

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本谷有希子さん 新刊で描いた「総コンテンツ消費社会」が問うもの

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新刊「あなたにオススメの」を出版した作家の本谷有希子さん=東京都文京区で2021年6月30日、内藤絵美撮影
新刊「あなたにオススメの」を出版した作家の本谷有希子さん=東京都文京区で2021年6月30日、内藤絵美撮影

 作家の本谷有希子さんが新著「あなたにオススメの」(講談社)を刊行した。収録されている中編小説「推子(おしこ)のデフォルト」では、デジタル機器が生活の隅々まで浸透して、さまざまな価値基準が反転した近未来の子育てが描かれている。自身も子育て中という本谷さんだが、今の社会と人間の変化をどう見ているのだろう。作品に込めた思いを聞いた。【関雄輔/学芸部】

「人間らしさ」なんてない

 街を歩くと、ほとんどの人がスマートフォンの画面を見つめている。私(記者)自身も同じで、たまにはデジタル機器から距離を取ろうと思ってはいるが……ついつい手に取ってしまう。道具に自分が支配され「人間らしさ」を失っているような気持ち悪さを感じながらも、その抵抗感は年々薄れていっているような気も……。

 そんな私の「モヤモヤ」を伝えると、「『人間らしさ』なんて、ないと思うんです」と本谷さんはいう。「我々は道具を手にすると、いとも簡単にその道具に迎合してしまう。生活も思想も変容していく中で、『人間らしさ』にこだわっているのが面白いと感じます。あえて言うなら、その節操のなさが『人間らしさ』でしょうか」

 小説の舞台は、個人間の差異があらゆる不幸の元とされ、「ええ愛」(AI=人工知能)が人間の理想像になった社会。主人公の推子は「等質性教育」を売りにする人気保育園に娘を通わせ、アナログ志向のママ友が子育てに悩む姿を、エンターテインメントとして楽しんでいる。

 「人々は、インターネットの普及で自由に発言できるシステムを獲得したはずなのに、同化への圧力はむしろ強まっていると感じます。以前、仕事で一緒になった若い子が『みんなが好きなものは分かる。…

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