アイヌ文化「正しく普及を」 偽物の文様出回る ウポポイで注目

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アイヌ文様を刺しゅうした作品を前に語る岡田育子さん=白老町内で2021年7月5日午前10時36分、平山公崇撮影 拡大
アイヌ文様を刺しゅうした作品を前に語る岡田育子さん=白老町内で2021年7月5日午前10時36分、平山公崇撮影

 北海道白老町の民族共生象徴空間(ウポポイ)が12日で開業1年を迎える。「大勢で歌う」を意味するウポポイ。差別せず権利を認め合い、みなが肩を組んで歌うような世界の実現に何が必要か。この節目に、アイヌの人々を取り巻く課題を探る。

 「『またニセモノが出ているよ』と娘が教えてくれたんです」。登別市の刺しゅうサークル「登別アシリの会」会長の芳賀美津枝さん(67)は、スマートフォンに映る偽物のアイヌ文様を記者に見せながら苦笑いした。

 同会が作成したアイヌ文様をあしらったマスクは2020年5月、当時官房長官だった菅義偉首相が記者会見で着用して話題となり、2カ月後に開業を控えた民族共生象徴空間(ウポポイ)への注目も手伝って全国から注文が殺到した。だが、高まる人気とは裏腹にすぐに偽物が出回り、今もインターネット通販などで売られている。

 芳賀さんは、トゲを表すとされる「アイウシ」というカッコ模様や「モレウ」という渦巻き模様に込められた先人の思いを説明する。「アイウシ(トゲ)で魔物の侵入を防ぎ、もし入られたとしてもモレウ(渦巻き)でくるくる回って落とす。模様を交差させ、一筆でつなぐことで狩猟から無事に戻ってほしいと願っている」

 だが、模倣品は重要な部分でデザインが異なる。芳賀さんは、線が交差せず、漠然と模様が並ぶマスクを見ながら「私たちが受け継いできた意味を理解せず形をまねただけ」と話した。

本来のアイヌ文様をペンで指し、パソコン画面に映る摸倣品との違いを指摘する芳賀美津枝さん=登別市幌別で2021年7月9日午前11時、平山公崇撮影 拡大
本来のアイヌ文様をペンで指し、パソコン画面に映る摸倣品との違いを指摘する芳賀美津枝さん=登別市幌別で2021年7月9日午前11時、平山公崇撮影

 模倣品が出回る背景には、アイヌ人気の高まりがある。アイヌ民族の少女らを描く人気漫画「ゴールデンカムイ」の影響で関心が高まったこともあり、14年の連載開始から数年後、新千歳空港(千歳市)で伝統文様織などを販売する「アイヌモシリ三光」では、毎年売り上げを2割伸ばしてきたという。藤岡千代美店長(51)は「コロナ禍で売り上げが激減した今も、空港内の他のクラフト店よりはいい。アイヌ人気の高さを感じる」と話す。

 人気の高まりを受け、「自分たちのアイヌ文様を守ろう」と登別アシリの会は20年末、特許庁にマスクの商標登録を出願した。だが、今年6月末に登録を認めない通知が届いた。法的に独占利用は認められないとの判断だったという。芳賀さんは「思いを理解されていないとしても、アイヌ文化への関心が高まっていると理解すればいいのかな」と複雑な表情を浮かべた。

 白老町でアイヌ文様刺しゅうサークル「フッチコラチ」を主宰する岡田育子さん(72)も、模倣品を巡る苦い経験をした。「ルウンペ」と言われるアイヌ民族の木綿衣の特徴を応用したバッグなどの作り方を受講生に教える岡田さん。ある時、展示品をまねて販売している人がいると知り、悲しい気持ちになったという。「ルール違反だと思いましたが、理性や良識に訴えるしかありません」

 こうした現状に一石を投じるべく立ち上がったのが、釧路市の一般社団法人「阿寒アイヌコンサルン」だ。アイヌ文化を知的財産ととらえ「正しく普及させる」ことを目的に19年に設立。阿寒アイヌ協会や阿寒アイヌ民族文化保存会などと連携し、文様の商業利用などについてアドバイスする。

 相談は19年約40件だったのが、20年には約60件に増え、今年は7月時点で既に約60件に及ぶ。「これまで相談するところがなかった」と設立を歓迎する声もあるという。文様のデザインを監修して独自の認証マークを発行し、これまでに約30件。お墨付きを得た企業側の安心感にもつながっているようだ。

 広野洋理事長は「我々は正しいアイヌ文化を広く伝えて普及させたい。『使うな』ということではないんです。先住民族の文化を産業として成り立たせ、こうした取り組みが道内や国内に広がればいいと思っています」と語った。【平山公崇】

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