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小説「無月の譜」

将棋の駒をめぐる探求の物語。失われた名品の駒を求め、ある挫折感を抱えた男が旅に出ます。作・松浦寿輝さん、画・井筒啓之さん。

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小説「無月の譜」

/216 松浦寿輝 画・井筒啓之

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 「日本人会」というのがどういう組織なのかよくわからないが、ともかく日本語の手紙で構わないだろうと竜介は思った。そこで、――戦時中、シンガポールに駐屯していた日本陸軍の部隊所属の兵士で、戦争末期に戦死した関岳史という者がおります、と書きはじめた。姓は違うがそれが自分の祖父の弟、つまり大叔父に当たる人だということ、自分の生まれた年よりはるか以前に亡くなった人ではあるけれど、ひょんなことからその生涯に興味を持つ成り行きになったこと、遺骨は返ってこなかったと聞いており、大叔父の最期に関してはそれ以外には何の情報もないこと、等々を説明した。

 そのうえで、ひょっとしてその関岳史がそちらの墓地に埋葬されたという記録はないでしょうか、という質問をまず書き付けてみた。日本の敗色が濃厚となってゆく時期の、そして戦争直後の混乱のなかで、そんなことがあっても不思議ではないのではないかと想像したのである。もし万が一、彼の墓がそちらにあるようでしたら、一度お墓参りにいきたいと思っております、とも書いた。それは本心だった。田能村さんや安井さんや植島さん…

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