米大リーグ、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手が、オールスター戦で史上初の「二刀流」を披露し、勝利投手となった。
1933年に始まった米国の球宴では、投手の実績もある伝説の大打者、ベーブ・ルースでさえ、投打で出場した経験はない。そんな歴史的意味もあって、大谷選手のプレーに注目が集まった。
指名打者に入ったまま投打で同時出場できる特別ルールが採用されたのも、ファンの期待に応えたものだ。
米大リーグに移って4年目の今季は、前半戦だけでア・ナ両リーグ最多の33本塁打を放ち、投手としても4勝を挙げた。そんなケタ外れの活躍は、日本人選手という枠を超えて米国のファンを熱狂させている。
岩手・花巻東高からプロ野球・日本ハムに入団した時は、二刀流に反対する評論家が多かった。しかし、球団は投打両面での才能を伸ばそうと大谷選手を育てた。
エンゼルスも投手か打者かの選択を迫らなかった。右ひじ手術の後は指名打者で起用し、リハビリを経て昨年から二刀流を再開させた。まだ27歳と若く、体力的にも技術的にも成長の途上にある。
ルースが活躍した戦前よりもレベルは上がり、選手の役割はポジションごとに専門化している。まして最高峰のメジャーの世界だ。
しかし、球界の常識にとらわれず、本人の可能性を最大限に引き出そうとしたことが今の大谷選手を作り上げた。型にはめない育成の大切さは、スポーツに限らず、他の分野にも共通するはずだ。
大谷選手の魅力は、豪快な本塁打や160キロ超の速球だけではない。セーフティーバントをしたり、盗塁を試みたり、アニメのヒーローさながらに野球の面白さを体現しているところにある。
グラウンドでのふるまいも、ファンの好感を得ている。チームメートと気さくに接する一方、対戦相手や審判には敬意を払う謙虚な姿勢だ。
新型コロナウイルスの感染拡大で、社会には閉塞(へいそく)感が漂っている。そんな中、伸び伸びと野球を楽しむ大谷選手の姿は、見ている人たちにスポーツの素晴らしさを再認識させてくれる。二刀流の進化がこれからも楽しみだ。