「禁じ手」の政策を、なぜ誰も止めなかったのか。菅内閣の機能不全を懸念せざるを得ない。
東京都への4回目の緊急事態宣言を巡り、政府は酒を提供する飲食店と取引しないよう酒類販売業者に出した要請を撤回した。新型コロナウイルス対策を民間への圧力で進めようとする手法に、業界団体が猛反発したからだ。
西村康稔経済再生担当相は先週、飲食店が酒類を提供しないよう取引金融機関からの働きかけを求め、撤回したばかりだ。
いずれも西村氏の発言で表面化したが、方針は事前に政府内で示されていた。
法的根拠がないにもかかわらず、規制官庁である国税庁や金融庁を通じて業界に要請すれば、事実上の強制となりかねない。
金融機関を使った働きかけは、資金繰りで苦慮する飲食店の弱みにつけ込んだと言われても仕方ない。販売業者への圧力とともに、脅しのようなやり方だった。
コロナ担当閣僚である西村氏の責任は重い。だが、菅義偉首相も発表前日の関係閣僚会議で、事務方から説明を受けていた。
首相は当初、西村氏の発言について「承知していない」と語っていた。14日に改めて問われると、「要請の具体的な内容は議論していない」と釈明したが、責任逃れではないか。
無責任なのは首相だけではない。麻生太郎副総理兼財務相は報告を受けた際、「ほっとけ」と秘書官に伝えただけだった。梶山弘志経済産業相は「強い違和感を覚えた」と語ったが、制止しようとしなかった。
法律を熟知しているはずの官僚が、政府の暴走を止めなかったのも不可解だ。
政権全体の問題である。
宣言が繰り返され、政府内には手詰まり感や焦燥感が漂っている。菅政権は強権的な体質が指摘されてきた。コロナ対策を名目にすれば何をしてもいいと、感覚がまひしているのではないか。
東京都の新規感染者数は1149人にのぼり、第4波のピークを超えた。コロナ対策で不可欠な国民の信頼を損ねたことは深刻だ。首相は陳謝したが、本当に反省しているのなら、誰の発案かを含め経緯を説明しなければならない。