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「黒い雨」原告再び勝訴 上告せず国は被害救済を

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 広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」の健康被害を巡り、従来より幅広く被爆者を認定する司法判断が示された。

 広島高裁は1審に続き住民の訴えを全面的に認めた。これまでの援護行政のあり方を指弾された国は被害救済に向き合うべきだ。

 広島地裁は昨年7月、援護対象区域の外で黒い雨を浴びた住民ら84人全員を被爆者と認め、被爆者健康手帳の交付を命じた。これを不服とし国側が控訴していた。

 高裁判決で特筆されるのは被爆者の認定基準を緩やかにしたことだ。1審は「健康被害を生じる可能性」があったかどうかで判断したが、原爆の放射能による健康被害を否定できなければ被爆者にあたると、ハードルを下げた。

 さらに援護対象区域でなくても「黒い雨に遭えば被爆者」との判断を示した。放射性物質が含まれていた可能性があるとの理由からだ。特定の病気の発症も要件から外し救済の道を大きく広げた。

 被爆者援護法は、原爆による健康被害が「他の戦争被害とは異なる特殊の被害」であることを踏まえて制定された。国が責任を持って補償することが理念だ。

 しかし、国は被爆者認定に厳密な科学的裏付けを求めて救済の対象を狭めてきた。

 1審判決を受け、厚生労働省の有識者検討会は援護対象区域の拡大を議論している。だが、判決の趣旨を生かすならば、そもそも線引きは不要なはずだ。認定方式を根本的に改める必要がある。

 国は科学的知見に縛られず、被害実態に目を向けるべきだ。

 高裁判決が「認定を否定するためではなく、被爆者と認めるために科学的知見を活用すべきだ」と批判したことに、真摯(しんし)に耳を傾けなければならない。

 広島に原爆が投下されて今年で76年となる。健康被害に苦しむ原告らは裁判で「一日一日をやっとの思いで生きてきた」と訴えた。しかし、高裁判決までに14人が亡くなった。

 裁判の被告は手帳交付を審査する広島県と広島市だが、上告するかどうかの判断は事実上、国が握っている。

 被爆者は高齢となり、残された時間には限りがある。政府は救済を最優先し上告を断念すべきだ。

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