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夫婦別姓「司法と立法のラリーいつまで」 市民の意思表示で変化を

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「反対していた議員が、勉強会を重ねるうちに応援してくれるようになると感動する」と語る井田さん=東京都新宿区で6月29日午後3時35分、国本愛撮影 拡大
「反対していた議員が、勉強会を重ねるうちに応援してくれるようになると感動する」と語る井田さん=東京都新宿区で6月29日午後3時35分、国本愛撮影

 最高裁が6月、夫婦別姓を認めない民法の規定を合憲と判断した。2015年に続く2度目の判断で、議論を国会に委ねる論理も変わらなかった。「司法と立法のラリーはいつまで続くのか」。地方議会から選択的夫婦別姓制度の実現を目指す井田奈穂さん(45)はテニスに例えて嘆く。そして、もう「観客」でいることはやめ、意思表示しようと訴える。

 <2歳の子どもがいる母親です。いまだに夫の名字に慣れません。とてもつらいです><予想外の結果にショックを受けました>

 最高裁の合憲判断が出た6月23日午後、市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局長の井田さんの元には、SNS(ネット交流サービス)を通じていくつものメッセージが届いた。

 最高裁の裁判官15人のうち11人による多数意見はわずかA4判2ページ。「姓を一つにすることは、家族の一体感を生み合理性がある」「女性への負担は旧姓の通称使用で緩和できる」などとした15年の判決をほぼなぞっただけの内容だった。井田さんは「社会の雰囲気が別姓容認に徐々に変わる中、司法への期待は大きかった分、落胆も大きい。今まで静観していた人たちから『自分も何かできないか』との連絡もあり、反響が大きかった」と振り返る。

6月23日の最高裁大法廷の合憲判断後、井田奈穂さんの元に届いたメッセージ=井田さん提供 拡大
6月23日の最高裁大法廷の合憲判断後、井田奈穂さんの元に届いたメッセージ=井田さん提供

 井田さんの活動の原点は自身の経験だ。前夫は結婚前、「妻の名字になるなんて恥ずかしい」と言った。自分が前夫の姓に変え、ずっと望まないあだ名で呼ばれているような違和感があった。離婚後は、次にパートナーを見つけても改姓するつもりはなかった。しかし、事実婚状態だった今の夫が手術を受けることになった際、井田さんでは手術の合意書にサインができなかった。結局、法律婚をして姓を変え、銀行口座や身分証の氏名変更など煩雑な手続きを再び経験した。

 SNS上で改姓に伴う悩みを吐露すると、同じ思いを抱える当事者がたくさん共感してくれた。18年夏、地元の東京都中野区議会に選択的夫婦別姓の実現を求めて陳情した。区議会は同年12月、国会に法制化を求める意見書を可決した。手応えを感じ、「このノウハウを共有すれば全国的な動きになる」と、すぐに全国陳情アクションを設立。仲間たちと各地で陳情を重ねた。

 地方議会で可決された意見書は、7月14日時点で235件に上り、賛同者も500人近くに増えた。「子どもの代まで苦痛を残したくない」という信念が活動の根底にある。

 今年6月、東京都議会でも意見書が全会一致で可決された。陳情を始めた18年末には、主要会派で唯一別姓推進に反対していた自民会派の議員には面会すらかなわず、「出待ち」などあの手この手を使ったがうまくいかなかった。今年に入り、ようやく自民の女性議員らが面会に応じた。意見書案を「国会に法制化を求める」から「法制化の審議の推進を求める」と修正したことで、自民会派内でも受け入れられた。

 井田さんは「1カ月後に迫った都議選への影響を懸念したのだろう」と感じた。それでも、2年半かけた意見書が可決される瞬間を議場で見届け、「対話を続ければきっと変わる」と自信を深めた。

最高裁判所=東京都千代田区で、内藤絵美撮影 拡大
最高裁判所=東京都千代田区で、内藤絵美撮影

 これまでに出会った議員は1000人を超える。夫婦別姓に反対の人でも、「同姓を否定するわけではない。別姓の選択肢が必要」ときちんと説明すれば、理解を示す人が多かった。一方で、「女性は男性の三歩後ろを歩くべきだ」などと女性蔑視の考えから反対する議員もいた。「誰を選ぶか、有権者の1票は重い」。井田さんは、別姓への姿勢は投票の基準になると指摘する。

 衆院の総選挙と、最高裁の裁判官の適性をチェックする国民審査は今秋までに実施される。いずれも有権者が意思表示できる機会だ。井田さんは、夫婦別姓を巡って押し付け合いが続く立法と司法の関係を変えるチャンスになると感じている。「自分たちの代表をしっかり見極めなくてはいけない。最高裁も裁判官15人中、女性は2人だけで、ジェンダーギャップの問題がある。私たち一人一人が意思表示をしなければ、変わるものも変わらない」と呼び掛ける。【国本愛】

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