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あの感動の調べをもう一度。注目公演の模様を鑑賞の達人がライブ感たっぷりに再現します。

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ウィーン・フィルの響きが織りなす室内楽の妙~サントリーホール・チェンバーミュージック・ガーデン

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3年ぶりにチェンバーミュージック・ガーデンへ出演したキュッヒル・クァルテット 写真提供:サントリーホール
3年ぶりにチェンバーミュージック・ガーデンへ出演したキュッヒル・クァルテット 写真提供:サントリーホール

 6月6日から3週間にわたって開催された「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン(チェンバー・ガーデン)」の最終盤に開催されたウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーによる二つの公演について振り返る。取材したのはキュッヒル・クァルテットのハイドン・ツィクルスⅠ(25日)とヘーデンボルク・トリオによるベートーヴェンとブラームスの作品選Ⅱ(27日)でいずれも会場はブルーローズ(小ホール)。(宮嶋 極)

 取材したキュッヒル・クァルテットの公演は当初22日に、ヘーデンボルク・トリオは21日に予定されていたが、入国制限クリアなどの関係で開催が最終盤にずれ込んだ。

 キュッヒル・クァルテットはウィーン・フィルの前コンサートマスター、ライナー・キュッヒル、現楽団長ダニエル・フロシャウアー、前首席ヴィオラ奏者ハインリヒ・コル、チェロ奏者シュテファン・ガルトマイヤーによる四重奏団。1973年にキュッヒルを中心にウィーン・フィルの中核プレイヤーによって結成、第2ヴァイオリンとチェロが世代交代し今日に至っている。チェンバー・ガーデンへの登場は3年ぶり。今回はウィーン室内楽の父といわれるハイドンの四重奏曲の中から9曲を厳選し3回に分けて演奏された。

 彼らのサウンドは高音が際立つ華やかなものでウィーン・フィルの響きを凝縮したような雰囲気を漂わせる。その一方で古き良き典雅な音楽作りに終始するのではなく、機敏で速い運弓によって時に現代的で引き締まったアンサンブルを聴かせてくれた。いつにも増してキュッヒルら4人の気迫がすさまじく、その高揚感が聴衆にも伝わり終演後は盛んな喝采が湧き起こった。これに応えてハイドンの弦楽四重奏曲第67番ニ長調 Hob. III:63「ひばり」から(演奏順に)第2楽章、第4楽章、第1楽章、第3楽章をアンコールするほどのサービスぶりだった。

ヘーデンボルク・トリオが日本デビューを飾ったのは2017年の「チェンバーミュージック・ガーデン」。それだけに思い入れも深い 写真提供:サントリーホール
ヘーデンボルク・トリオが日本デビューを飾ったのは2017年の「チェンバーミュージック・ガーデン」。それだけに思い入れも深い 写真提供:サントリーホール

 ヘーデンボルク・トリオはスウェーデン人でヴァイオリニストの父、ピアニストで日本人の母を持つヴィルフリート・和樹(長男、ヴァイオリン)、ベルンハルト・直樹(次男、チェロ)、ユリアン・洋(三男、ピアノ)の3兄弟による編成で、和樹と直樹はウィーン・フィルのメンバーとしても活躍中。日程の変更で最終日、それもフィナーレ・コンサートが終わってからの変則開催となった。

 ベートーヴェンとブラームスの作品を2回にわたって取り上げたが、アイコンタクトを交わしながらの親密なアンサンブルは兄弟ならではの温かさを感じさせるもの。曲想によってはヴィブラートをかけないなど現代的な要素とウィーンの伝統をうまく融合させた演奏は作品の魅力をより深く掘り下げるものであった。

 盛大な拍手に和樹は「アッという間の3週間で、(今年の)チェンバーミュージック・ガーデンは幕を閉じました。将来がどうなるか分かりませんが、こうした形で音楽をお届けすることができて感動しています」と声を詰まらせた。「アンコールとして子どもの頃から3人で弾いてきた作品をお聴きください」とサン=サーンス(リスランド編曲)の組曲「動物の謝肉祭」から「白鳥」を3人が涙ながらに演奏するという感動的なフィナーレとなった。

 世界的に活躍する音楽家である彼らでも、来日して聴衆の前で演奏を披露できたということに対する感激を隠しきれなかったこのシーン、そしてキュッヒルたちのいつにも増しての気迫と合わせて考えると、音楽家たちが日常を取り戻すのにはまだまだ遠い状況に置かれていることを改めて認識させられた。

公演データ

【サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン2021】

◆キュッヒル・クァルテットのハイドン・ツィクルス Ⅰ

6月25日(金)19:00 サントリーホール・ブルーローズ

ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル

ヴァイオリン:ダニエル・フロシャウアー

ヴィオラ:ハインリヒ・コル

チェロ:シュテファン・ガルトマイヤー

ハイドン:弦楽四重奏曲第30番ニ長調Hob.Ⅲ:30、第57番ト長調Hob.Ⅲ:58、第74番ト短調Hob.Ⅲ:74「騎手」

◆ヘーデンボルク・トリオ ベートーヴェン&ブラームス Ⅱ

6月27日(日)19:00 サントリーホール・ブルーローズ

ヴァイオリン:ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク

チェロ:ベルンハルト・直樹・ヘーデンボルク

ピアノ:ユリアン・洋・ヘーデンボルク

ベートーヴェン:ヴェンツェル・ミュラーの「私は仕立屋カカドゥ」による変奏曲ト長調Op.121a

ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第5番ニ長調Op.70-1「幽霊」

ブラームス(キルヒナー 編曲):弦楽六重奏曲第1番変ロ長調Op.18(ピアノ三重奏用編曲)

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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