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池上彰のこれ聞いていいですか?

ジャーナリストの池上彰さんが各界で活躍する人と対談します。

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池上彰のこれ聞いていいですか?

最期に聴きたい音は? 占部まりさんと考える死との向き合い方

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医師の占部まりさん=横浜市西区の病院で2021年6月25日、丸山博撮影
医師の占部まりさん=横浜市西区の病院で2021年6月25日、丸山博撮影

 ジャーナリストの池上彰さんが各界で活躍する著名人と対談するシリーズは、世界的な経済学者の故宇沢弘文さんの長女で、内科医で日本メメント・モリ協会代表理事の占部まりさんに登場してもらった。メメント・モリはラテン語で「死を想(おも)え」という意味。新型コロナウイルスの感染拡大で人の死がこれまでになく身近になった今、どのように死と向き合えばいいのかを考えていく。

 池上 日本メメント・モリ協会を設立したのはなぜですか。

 占部 自宅でみとった父の最期がきっかけです。最期は胃ろうを含め、今思うと過剰医療で苦しそうだったのです。水俣病関係で父と親交があった、在宅医療に詳しい大井玄先生(東京大名誉教授・公衆衛生学)にその話をしたら「その人の力に任せると、すごく楽な最期があるんだよ」と教えられました。

 終末期で脱水のために意識を失って来院した90代の膵臓(すいぞう)がんの患者さんがいました。点滴をしたら少し話ができるようになったけれども、その後、肺水腫になってしまい、会話も苦しくなってしまった。家族の承諾を得て点滴をやめたら、再び話ができるようになったのです。最後の日の朝も「調子はどうですか」と尋ねたら「先生ありがとうね」っていう穏やかな会話があって、お昼過ぎに眠るように亡くなりました。

 そこには今まで経験した医療と違う世界がありました。でも、いきなり患者さんの家族にそう言っても理解されないし、かえって禍根を残すことになります。「死について、いろいろな角度から話す場所が必要なのでは」と感じたのです。

 池上 在宅で胃ろうをすると、お医者さんがいないと無理でしょう。

 占部 そんなことは全くありません。もちろん医師の定期的な診察は必要ですが、胃ろうでも楽しく家で過ごされている方はたくさんいます。自分が慣れ親しんだ家という場所の力がやはり大きい。私が研修医だったとき、手術をした食道がんの70代の患者さんが、回復して異常もないのに全然、食事を取らなかったのです。当時の先生が「もう家に帰す」と。大丈夫かしらと思ったのですが、その後、外来に来られたその方が、奥さんと一緒に椅子に座ってサンドイッチを食べていた。場所や環境がいかに大切なものかという経験が積み重なってきたんです。

 池上 14~17世紀の中世ヨーロッパでペストが大流行した時に、メメント・モリという言葉が流行し始めました。あえてその名前を付けたのは、どういう意味があるのですか。

 占部 「死」という言葉をそのまま出してしまうと楽しくないですから、オブラートに包んで発信しようと思いました。写真家の藤原新也さんの著作や、アーティストのMr.Childrenの曲の副題にも使われ、スマートフォンのゲーム(モンスターストライク)にも同じ名前の木の精霊がいるらしくて。いろいろな世代にさまざまな思いを起こさせる名前ではないでしょうか。

 池上…

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