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小説「無月の譜」

将棋の駒をめぐる探求の物語。失われた名品の駒を求め、ある挫折感を抱えた男が旅に出ます。作・松浦寿輝さん、画・井筒啓之さん。

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小説「無月の譜」

/220 松浦寿輝 画・井筒啓之

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「聖ラザロ教会は去年、閉鎖されました。老朽化した建物は、今秋取り壊される予定です。テイラー神父はずいぶん昔にお亡くなりになったと聞いています。教会のなかにはまだ処分の済んでいないガラクタが多少残っていますが、お探しのものはそのなかにあるかもしれません。もし探しにくるおつもりなら扉を開錠しますので、ご来訪の日時をお知らせください」――プラット氏の手紙を日本語に訳してみるとだいたいこんなところになる。ガラクタ(odds and ends)という言葉が使われていて、竜介は何となくむかっとした。

 封筒と便箋は“Platt Estates Agency”というロゴ入りのものだった。「プラット不動産」ということだろう。マーティン・プラット氏は恐らくその会社の社長さんなのだろう。廃屋化し、取り壊しを待つばかりの聖ラザロ教会は、今や不動産会社の管理下に入っているというわけか。

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