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小説「無月の譜」

将棋の駒をめぐる探求の物語。失われた名品の駒を求め、ある挫折感を抱えた男が旅に出ます。作・松浦寿輝さん、画・井筒啓之さん。

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小説「無月の譜」

/221 松浦寿輝 画・井筒啓之

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 恐らく、家具調度その他、換金できるものはすべて売却され、教会のなかはほとんど空っぽになっているのだろう、と竜介は想像した。もはやそこに目ぼしいものは何もない、ガラクタしかない――プラット氏はそう判断しているのだろう。後はもう、建物が解体されるときついでに廃棄処分になるだけの、まあゴミみたいなものしか内部には残っておらず、だから無関係な第三者がなかに入っていって、持っていきたいものがあればどうぞご勝手に、何を持っていっても構いませんよ――と、そういう話なのだろう。

 竜介は手紙のなかに、将棋の駒(pieces of Sh〓ghi)と書き、Sh〓ghiには括弧(かっこ)してa sort of Japanese chessなどという説明を加えておいたのだが、プラット氏にしてみれば、たぶんJapanese chessがいったいどういうものなのか見当もつかなかっただろうし、興味もなかっただろう。日本人兵士が自分の手製のそんな品を、五十数年も昔に教会に寄付したのだとい…

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