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柔道ニッポン 世界が憧れる一本勝ち

 1964年東京オリンピックで初めて採用された柔道は半世紀を経て国際化が進んだ。海外選手はモンゴル相撲など自国発祥の格闘技のルーツを採り入れ、技が多様化してきた。その中でも日本の美しい一本勝ちは世界の憧れの対象であり続ける。

袖釣り込み腰 両袖つかんだらもう離さない

阿部 一二三・詩 HIFUMI ABE UTA ABE

阿部一二三 男子66キロ級。世界選手権2017年、18年優勝
阿部詩 女子52キロ級。世界選手権18年、19年優勝

 日本代表の中でも豪快な一本勝ちを量産しているのが男子66キロ級の阿部一二三(23)=パーク24=と妹で女子52キロ級の詩(21)=日体大=のきょうだいだ。得意とするのが相手の袖を持って、腰に乗せて投げる「袖釣り込み腰」。袖と襟を持って投げるのが一般的だが、両手とも持ちやすい袖を持つことで、警戒された相手にも技を仕掛けやすいよう工夫した。2人はともに開会式の2日後の7月25日に登場し、きょうだい同時優勝を狙う。

講道館の試技
男子66キロ級・阿部一二三、
女子52キロ級・阿部詩

常識を覆す3つのポイント

全日本柔道連盟 科学研究部
石井孝法さん(41)

 袖釣り込み腰は一般的には相手の襟と袖を持ってコントロールし、腰に乗せて投げる担ぎ技だ。阿部きょうだいは相手をつかむ持ち手が独特だ。自らの体に近く、つかみやすい両袖を持つことで、技に入りやすくしている。相手の体の中心に近い襟を持つよりコントロールしにくいが、強靱(きょうじん)な体幹を生かして多少強引にでも技を仕掛けることができる。

 ただ、両袖をつかむ技は肩車や小外掛けなど種類が限られる。その相手の予測を上回るための二つ目のポイントが、技に入る予備動作の崩しがないことだ。通常は相手を手前に引いて重心を崩してから、技に入る。この手順を省くことで、素早く技を仕掛けられる。ハイレベルな戦いでは崩すことで防御される。

 日本柔道界の常識を覆したのは、仕上げで下半身より上半身が遅れて技の体勢に入ることだ。通常、技に入ってから相手が畳に倒れるまで約1秒。相手の懐に入るまでは0.5秒ほどだが、相手の目線に入る上半身が0.2秒程度遅れて技の動作に入ることで、相手に気づかれにくくなる。0.5秒のうちの0.2秒の差は大きい。相手からすると、気づいた時にはもう技に入られている感覚でしょう。

背負い投げ 相手に悟らせぬ「ゼロ背負い」

向 翔一郎 SHOICHIRO MUKAI

男子90キロ級。19年世界選手権2位

 同じ担ぎ技の「背負い投げ」を得意とするのが男子90キロ級の向翔一郎(25)=ALSOK。予備動作である重心の崩しをせずに技に入る「ゼロ背負い」で、相手に技を悟らせない。

講道館の試技
男子90キロ級・向翔一郎

一瞬で視界から消える

 重い階級なのに、瞬時に相手の足元に30、40センチに体を折り畳んで入って、背負い投げをかけられるのが向の強み。相手からすると一瞬で視界から消える形になる。膝や足首の柔らかさがあり、体の力を抜くのがうまいので、低い背負いが仕掛けられる。

内股 「チェーンソー」並の破壊力

大野 将平 SHOHEI ONO

男子73キロ級。16年リオ五輪優勝

 1992年バルセロナ五輪男子78キロ級金メダルの吉田秀彦さん、2000年シドニー五輪男子100キロ級金メダルの井上康生・男子代表監督ら歴代の名選手が得意としていたのが内股である。相手のももを自らの足で跳ね上げる豪快な技を現在得意とするのが16年リオデジャネイロ五輪男子73キロ級金メダルの大野将平(29)=旭化成。その威力は練習拠点で母校・天理大の穴井隆将監督が「チェーンソー」と称するほどだ。

男子73キロ級・大野将平

予想外の縦回転で強烈パワー

 大野の内股は、自分の足の振りを使って作り出した横回転の力をうまく軸足を起点に縦回転に転換し、強烈に跳ね上げる力を生み出している。普通の選手は横回転で終わってしまう分、相手は予想以上の力を受けて、分かっていても技を食らってしまう。

内股 尻を起点に縦に投げる

芳田 司 TSUKASA YOSHIDA

女子57キロ級。世界選手権18年優勝、19年2位

 女子57キロ級の芳田司(25)=コマツ=は、小柄な体格を逆手にとり、尻で持ち上げることから「ケツ股」と呼ばれる独自の内股を得意とする。

講道館の試技
女子57キロ級・芳田司

股関節周りの柔軟性が生み出す爆発力

 足で跳ね上げる内股を腰に乗せて縦に投げることで、体全体の力が伝わり、爆発力を生み出している。股関節周りの柔軟性が高く、足が高く上がることで威力が増している。体全体で技を仕掛ける分、相手に気づかれやすいが、タイミング良く技に入るセンスでカバーしている。

寝技 一度決めたら、逃がさない

浜田 尚里 SHORI HAMADA

女子78キロ級。18年世界選手権優勝、19年2位

 女子78キロ級の浜田尚里(30)=自衛隊=は「寝技の女王」と呼ばれる。ロシアの格闘技「サンボ」の世界選手権で優勝した実力の持ち主で、関節技や寝技を得意とする。執拗(しつよう)に畳に引き込み、一度決めたら絶対に逃さない。

講道館の試技
女子78キロ級・浜田尚里

多彩な展開の引き出し

 腕に絡みつき、相手をひっくり返して抑え込んだり、関節技を決めたりするのが必勝パターン。軸とする入り方は一つだが、フィニッシュに持っていくまでの展開の引き出しが多く、相手が分かっていても決められてしまう。寝技を繰り返し練習してきたことで、精度が高い。

男女混合団体戦にも注目

 大野、向、芳田は五輪で初採用された男女混合団体の対象となる階級で、団体戦でも活躍が期待される。

「きょうだいで金」なるか

 東京オリンピックの会場と同じ日本武道館で行われた2019年世界選手権で、混合団体も合わせて5個の金メダルを獲得した柔道ニッポン。地元開催を見据え、五輪2連覇を狙う男子73キロ級の大野将平ら最強のメンバーがそろった。豪快な一本勝ちで注目を集める男子66キロ級の阿部一二三、妹で女子52キロ級の詩のきょうだいは、そろって大会第3日の7月25日に登場。同じ日にきょうだいそろっての金メダルが期待される。

日程

男子66キロ級 7月25日 男子73キロ級 7月26日 男子90キロ級 7月29日 女子52キロ級 7月25日 女子57キロ級 7月26日 女子78キロ級 7月29日 混合団体戦 7月31日
※写真は、梅村直承、喜屋武真之介、久保玲、徳野仁子、宮間俊樹、和田大典撮影

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