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小説「無月の譜」

将棋の駒をめぐる探求の物語。失われた名品の駒を求め、ある挫折感を抱えた男が旅に出ます。作・松浦寿輝さん、画・井筒啓之さん。

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小説「無月の譜」

/223 松浦寿輝 画・井筒啓之

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 安井さんとはあれ以来、連絡がつかないままだった。どうしているかな、とときどき思うのだが何しろ電話が繋(つな)がらないのでどうにも行動のしようがない。いきなり来訪してみるしかなかろうが、それも何となく気が引けるし、わざわざ出かけていってもし不在だったら……と思って迷ったりしているうちに、結局面倒になり行く気が失(う)せてしまう。

 しかし、今日はたまたま神田にいる。御徒町は、神田からはほんの二駅先でしかない。せっかくここまで来たのだから、ちょっと足を延ばして安井さんのご機嫌伺いをしてゆくか。また将棋の相手をしてもいいし……。実のところ、竜介は――我ながら意外だったが――あの偏屈な爺(じい)さんのことがけっこう好きになっていたのである。

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