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今週の本棚・なつかしい一冊

なかがわちひろ・選 『内臓とこころ』=三木成夫・著

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 (河出文庫 858円)

 三木成夫先生は東京藝術大学で教養科目の生物学を教えていた。藝大の学生は科学者にはならない。それでも、多くのものをいただいた。

 小劇場のような階段教室の照明を落として、先生は次々にスライドを映写する。ヤツメウナギ、縄文杉、小便小僧、しめ縄、胎児の顔、仏像、潮汐(ちょうせき)表にゴキブリの活動記録など、奇想天外な組み合わせに彫刻家や声楽家の卵たちは笑いころげた。枯淡な味わいの落語家さながらに座をもりあげて聴く者の頭とこころを揺さぶりながら、三木先生は三十億年の生命記憶について語るのだ。

 たとえば、らせん。命は、らせんを描くという。赤ん坊が産道を通るときも、植物が芽吹くときも、水の流れもDNAも。胎児が子宮の中で聞く音が教室中に流れたこともある。母胎の血流や心臓の鼓動は、夜の海辺に響く潮騒の音に似ていた。

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