田島寧子さん「めっちゃ悔しい」からの地獄 闇を照らした一言
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名前も、顔も変えたいと真剣に考えたほど追い詰められていた。銀メダルを手にしたことで味わった地獄のような日々から20年余りが過ぎた7月。人が行き交う東京・銀座で、黄色い半袖ニット姿の女性を気に掛ける人はいなかった。「声を掛けられることはなくなりました。さみしくはない。楽ですね」。この女性がかつて脚光を浴びたメダリストだと気付く人は、今はどれだけいるのだろう。
五輪がもたらした「影」をもがきながら抜け出した田島寧子(やすこ)さんは今年、40歳になった。
2000年シドニー五輪の競泳女子400メートル個人メドレーで2位。当時19歳。夢の舞台でレースを終えると、テレビカメラを前にしたインタビューに満面の笑みを浮かべ、こう応じた。
「めっちゃ悔し~い、金がいいですう」
シドニー五輪の日本勢メダル第1号だった。表彰式でメダルを受け取った後に台から落ちて捻挫したことも話題に。天真らんまんなキャラクターで人気を集め、レース後のコメント「めっちゃ悔し~い」は流行語になった。
「五輪という人生最大の舞台で最高のパフォーマンスができたんです。それなのに2番。口に出たのが『悔し~い』というコメントで、揺れ動く気持ちがあの笑顔になりました」
田島さんにとって初めての五輪は、味わったことのない空間だった。「ヤスコ タジマ」。名前をコールされ、決勝のスタート台に立った。「空気が震えていました。肌にビリビリと振動がくるほどの大声援。まるで世界の中心に私がいるって気分でした」
熱気に包まれたスタート前、不思議と冷静になれた。水の中で周りの選手を視界に捉えると、残り50メートルで2番手争いをしていた隣のルーマニア選手と目が合った。「スローモーションのように、つらそうな顔が見えました。これは勝てると思ったんです」。そう確信して2番手に上がり、先行するウクライナ選手を追った。
自身の日本記録を3秒余り更新する4分35秒96。想像以上の好タイムに驚きながらも、トップは2秒以上の差で世界新記録だった。2位を示す電光掲示を見つめながらペロリと舌を出し、顔をしかめた。
帰国した成田空港は、想像をはるかに超える別世界だった。カメラのまばゆいフラッシュを浴びながら、銀メダルを首から下げて歩く。柔道女子金メダルの谷(旧姓・田村)亮子さんと同じ航空機だったため、「タムラー」という歓声が聞こえた感じがした。
「気がつくと柔道の選手たちの姿はもうなかったんです。歓声が田村さんではなく『タジマー』だったことに気づきました。えっ、…
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