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東京五輪とコロナ対策 感染拡大防止を最優先に

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 1964年以来2度目となる東京オリンピックの競技が続く中、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない。

 大会の1年延期決定を主導した安倍晋三前首相や後継の菅義偉首相は、「人類が新型コロナに打ち勝った証し」にすると繰り返してきた。

 だが、世界はいまだ大流行の渦中にある。国内でもワクチン接種が遅れ、東京都には4度目の緊急事態宣言が出されている。

 菅首相自身が「異例の開催」と認めざるを得ないような状況である。宣言下の開催について、国民の賛否は割れたままだ。政府の責任は重い。

 私たちは、流行下で開催するのであれば「無観客」とすることを求めてきた。開幕直前になって、一部を除き無観客とすることが決まった。

「安全・安心」にほころび

 五輪は200を超える国と地域から、選手や大会関係者約5万人が集まる巨大イベントだ。医療体制が整っていない国もある。

 政府や大会組織委員会は、感染拡大を防ぐことを最優先すべきだ。大会をきっかけに、国内外で状況が悪化する事態は避けなければならない。

 64年の五輪は高度経済成長期にあたり、国内スポーツの振興やインフラの整備につながった。戦後の復興を世界にアピールし、国民の一体感を醸成した。

 今回は開催の意義が問われ続けた。コロナ禍に苦しむ国民から「何のための五輪なのか」という疑問が噴き出した。

 にもかかわらず、組織委や政府から明確なメッセージが出されないままだ。

 運営面では、感染対策の不備が相次いで表面化し、菅首相が掲げる「安全・安心」にはほど遠い状況だ。

 選手らに対しては、外部と遮断した環境で感染を防ぐ「バブル方式」が採用されている。だが、空港や宿泊施設などで十分に機能していない。

 濃厚接触者となった選手は、競技直前のPCR検査で陰性であれば出場が認められることになった。予定通りの競技実施を優先した特例措置だが、対戦を通じて感染が広がるリスクがある。

 安心の大前提である正確な情報提供もおぼつかない。組織委は感染者の国籍などを公表しておらず、各国の対応に任せている。プライバシーの保護を理由にしているが、早急に見直すべきだ。

 国内では感染の「第5波」が広がりつつある。現在の拡大ペースが続いた場合、東京の新規感染者数は8月初旬に過去最多の2600人規模になる計算だという。インドで初めて確認され、感染力が強いとされるデルタ株の増加も心配だ。

 東京だけでなく、神奈川県など隣接する3県でも新規感染者数が増加している。緊急事態宣言の対象地域拡大をためらうことがあってはならない。

 感染者数が急増して医療体制の逼迫(ひっぱく)が生じるようなことがあれば、政府や組織委は競技の打ち切りを含め適切な対応を取るべきだ。その際の判断基準を早急に示さなければならない。

新しい観戦スタイルを

 五輪の期間は夏休みと重なる。旅行や帰省で感染が地方に広がることが懸念されている。都道府県を越えた移動を控えるよう、政府は説得力のあるメッセージを出すべきだ。

 五輪に参加する各国の選手と国民が交流する機会は大きく制限され、競技場で熱気を感じることもかなわない。

 専門家は感染防止の観点から、自宅で家族らとテレビなどで観戦するよう呼び掛けている。スポーツバーなどに大勢が集まって応援するようなことは控えたい。

 自宅ならではの楽しみ方もあるはずだ。選手の詳しいデータを画面に表示しながら競技を見たり、オンラインで応援メッセージを送ったりするなど、新しい観戦スタイルが生まれるきっかけになるかもしれない。

 延期が決まって以降、選手は先が見通せず練習も制限される中で、自分と向き合いながら努力を積み重ねてきた。事前合宿で十分な調整もできず、静かな会場で本番に臨む。

 大きな制約の下で開かれている大会である。それでも最善を尽くそうとする選手たちに、エールを送りたい。

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