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日本ではゲームといえばテレビやスマホがメインですが、近年、対面で行う非電源ゲームも注目を集めています。人気のボードゲーム・カードゲームを紹介します。
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メカニクスごとの作品紹介は今回お休みして、先日ドイツ年間ゲーム大賞(Spiel des Jahres、SDJ)に輝いた「ミクロマクロ:クライムシティ」についてです。「ゲームマーケット2020秋」(2020年11月14、15日)で日本語版が先行販売されていたのをゲット。さっそく家族と遊んでみましたが、単に面白いだけでなくボードゲームの新たな可能性を強く感じさせられる協力ゲームでした。
ほのぼの絵柄とは裏腹に
風船を持ったウサギのような長い耳の人物(右下には同じ人物が倒れている)が描かれた箱を開けると、75センチ×110センチという大きな地図が。あとは16種類の事件ファイルが入ったセロハンの袋、簡単な拡大鏡も。プレーヤーは捜査官となり、次々と起きる事件の謎を協力して解いていくわけです。
線画で描かれた地図には、さまざまな建物や施設、交通手段、そして人物が描かれています。よくみると、殺人事件現場や強盗事件現場も。ゆるい雰囲気の絵柄にだまされてはいけません。この街は「クライムシティ」。犯罪都市なのです。実は箱絵にも事件は一つ描かれています。
事件ファイルは数枚のカードで構成されており、「事故現場を探せ」とか「死因は何?」などの課題が表面に記されています。課題自体がヒントになっており、解答が分かればカードを裏返して答え合わせ。正解すれば次なるカードの課題を指針に捜査を進めていきます。
例えば「被害者はどこに住んでいる?」という課題があれば、その人物の特徴を確認し地図をよくよく眺めます。するとあら不思議。数ブロック手前に殺された男が街角を歩いているのが描かれているではありませんか。その先をたどっていくと同じ人物が家から外出しようとする様子が。つまりこの地図は、ある一時点の世界を写し取ったものではなく、時系列が折りたたまれて描かれているのです。
「ウォーリー」足す「旅の絵本」
「ウォーリーをさがせ!」という有名な絵本があります。多数の人物が描かれた絵の中から、赤白のボーダー服を着たウォーリーや仲間たちを見つけ出すのが目的。「ミクロマクロ」が発表された当時、「ウォーリーをさがせ!」に似ているという評判が多かったのですが、筆者はそれに加えて昨年末亡くなった安野光雅氏の「旅の絵本」に通じるものがあるなと感じています。「旅の絵本」は、中世ヨーロッパを舞台に1人の旅人が絵の端っこなどに描かれています。船で岸にたどり着いた旅人は馬を買い、丘を越えて街へ。よくみると有名な童話などの場面が登場し、大人も子供も楽しめる文字がない傑作絵本です。絵の中の旅人の動きを通して物語が展開されていく。「ミクロマクロ」の作者が影響を受けたのかもしれません。
少し大人向きの話も
対象年齢は8歳以上となっていますが、事件の動機の中には大人向けの内容もあるので小学校高学年以上がふさわしいのでは。ホビージャパン社の特設サイト(https://www.micromacro-game.com/ja/index.html)でサンプルが遊べるので、試してみてはいかがでしょう。家族で友人で、「こっちにいたぞ」「なるほど。だから事件が起きたのか」とワイワイガヤガヤと会話が弾む楽しい作品です。
KDJも協力ゲーム
SDJと同時に発表されたよりゲーマー向けのエキスパート部門賞(Kennerspiel des Jahres、KDJ)には、「パレオ~人類の黎明(れいめい)~」が選ばれました。こちらも協力ゲームです。既に日本語版も発売済みですが、筆者は残念ながら未プレー。出版元・アークライト社の商品紹介によると、仲間とともに旧石器時代の狩猟採集社会で生き残ることが目的。食料や資材を集め、腹をすかせたオオカミや強大なマンモスなどの障害に立ち向かいます。最終的にマンモスの壁画を完成させればプレーヤー全員の勝利。逆にドクロトークンを一定数もらってしまったら敗北。
使用するカードによって難易度が変わり、やり込み要素も多そうです。協力ゲームにありがちな「奉行問題」(1人のプレーヤーが他プレーヤーの行動選択をすべて指示してしまう問題)については、自分の山札から3枚引いてアクションが記された表面を見ずに2枚戻すという運要素を入れることによって緩和しているとのこと。カードの裏面の絵柄でおおよその行動分野が分かるのですが、アクションが確定されているわけではないので、「奉行」が指示しようにも難しい。考えましたね。協力ゲームが苦手な人も試してみる価値がありそうです。【野地哲郎】=次回は8月14日掲載
「ミクロマクロ:クライムシティ」データ
1~4人用◆所要時間15~45分◆8歳以上対象◆ヨハネス・ジッヒ作◆2020年初版
「パレオ~人類の黎明~」データ
1~4人用◆所要時間45~60分◆10歳以上対象◆ペーター・ルステマイアー作◆2020年初版