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小説「無月の譜」

将棋の駒をめぐる探求の物語。失われた名品の駒を求め、ある挫折感を抱えた男が旅に出ます。作・松浦寿輝さん、画・井筒啓之さん。

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小説「無月の譜」

/229 松浦寿輝 画・井筒啓之

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 英語の本も日本語の本もほとんどが小説のようだが、竜介には聞いたことのない著者ばかりだった。

 そのなかに、竜介が何となく題名に聞き覚えのある、島田啓三著の絵物語『冒険ダン吉』が二冊混じっていた。装幀(そうてい)の壊れかけたその一冊を、ぱらぱらめくってみると、日本人の少年が南の島に漂着して王様になり、彼を尊敬する島の先住民を率いて敵と戦ってゆく、といったお話らしい。この教会では戦時中に日本語の塾が開かれていたというが、これはきっとそれと何か関係があるのではないだろうか。日本語教習の読本として使われていたとか……と竜介は想像した。

 しかし、結局、何の収穫もなかったな。竜介はまた階下に降りた。さあどうしようと途方に暮れてあたりを見回しているうちに、広間の隅に小さなドアがあるのに気づいた。ノブに手をかけてみると、このドアも施錠されておらず、すぐ開いた。なかは窓のない小さな部屋で、外から光が入ってこないのでよく見えないが、どうやら物置か倉庫らしい。おっ、どうやらここは脈がありそうだぞ、と竜介の胸は高鳴った。

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