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デジタルを問う 欧州からの報告

欧州では人権や民主主義の視点でデジタルテクノロジーのあり方を問い直す動きがあります。現場から報告します。

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デジタルを問う 欧州からの報告

巨大IT企業GAFAに挑む「プライバシー保護法律家」の闘い

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米IT大手グーグル本社=米カリフォルニア州マウンテンビューで2020年2月27日、中井正裕撮影
米IT大手グーグル本社=米カリフォルニア州マウンテンビューで2020年2月27日、中井正裕撮影

 デジタル化の波は私たちを猛烈な勢いでのみ込もうとしている。だが、そのあり方を人権や民主主義の視点から問い直そうとする動きもある。巨大IT企業は私たちに何を与え、何を奪っているのだろうか。欧州の現場から報告する。【ブリュッセル岩佐淳士】

利用される個人データ

 お金や物が減るわけではない。痛みを感じることもない。それでもやはり、何かが失われている。

 私たちは日々インターネットを使う。そのとき、多くのサービスと引き換えに渡しているものがある。私たち自身の情報だ。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)での交流や通販サイトでの買い物、検索エンジンで探すウェブサイト――。アクセスするたびに、どんなサイトをよく見ているか、いつどこでネットをつないでいるか、ときには年齢や性別についてなどのさまざまな情報が多くの企業に送信される。それらはサービス自体のほか、ネット広告に利用される。私たちが「どんな人物か」を判別し、欲しがりそうな商品の広告を表示するためだ。

 グーグルやフェイスブックなどの米巨大企業群「GAFA」を核とするIT業界は、利用者の情報を「対価」とするこのビジネスモデルで膨張を続けてきた。フェイスブックの創設者、マーク・ザッカーバーグ氏は2010年、「プライバシーは古い社会規範となった」とする趣旨の発言をしている。デジタル化社会では、より多くの人がオープンに自分たちの情報を共有するようになるとの見方だ。

 しかしここ数年、潮目が変わり始めている。個人データが収集・分析されることへの懸念に配慮し、企業側が相次いで「プライバシー重視」を強調するようになったのだ。

GAFAと戦う男 武器は法律

 変化へのうねりは、1人の若きオーストリア人法律家を中心に起きている。ウィーンを拠点とするプライバシー保護団体「noyb」代表、マックス・シュレムス氏(33)。ネットのプライバシー問題を巡りGAFAなどに数々の法廷闘争を挑み、欧州連合(EU)域内から米国への個人データ移転を可能にする協定を無効化させるなど業界全体を揺るがす判決を勝ち取ってきた。

 「プライバシー保護の本質は“隠すこと”ではなく、どういう情報を誰と共有すべきかを“誰が決めるのか”にある。そして、それはグーグルではなく、あなた自身であるべきです」

 髪の先をとがらせた「スパイキーヘア」に黒いTシャツ。シュレムス氏はそんないでたちでオンラインインタビューの画面に現れた。

 ネットを介した…

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