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賛否両論が渦巻くオリンピック一色の東京で、小さな町工場を経営する90歳の老社長が頭を抱えていた。中国に自社製のモーターを輸出しようとしたところ、外為法違反容疑で警視庁に書類送検されたのだ。中国では軍事転用される危険があったとされる。「まさかうちのモーターが…」。零細企業の技術を中国側が求めた理由は何だったのか。立件から6日で1カ月。事件の背景を追った。
【斎藤文太郎】
従業員2人の町工場
警視庁に書類送検された「利根川精工」は東京都大田区の住宅街の一角にあった。建物は3階建てで自宅も兼ねている。1962年創業。従業員はずっと数人しかおらず、現在も社長、取締役、従業員2人の計4人という有限会社だ。
会社を訪ねると、社長が室内に招き入れてくれた。事務所は6畳もないようなスペースでパソコンやプリンター、本棚が所狭しと並ぶ。取材中、会社の電話が複数回鳴った。「あんたは国賊だ」。警視庁の発表後、無言や嫌がらせ電話が相次いでいるという。
「なぜうちが中国に着目されたか分からない」。当惑しながら、社長は中国企業からアプローチがあった時のことを語り始めた。
“中国商社員”の飛び込み営業
3年ほど前のことだった。外出先から会社に戻ると、見慣れない男性が、連れてきた通訳を通じて従業員と話し込んでいた。「農薬散布用ヘリコプターに使うので、モーターを売ってほしい」。男性は中国の商社社員を名乗り、日本語でモーターの回転角度など細かい性能についても注文をつけたという。名刺を受け取った記憶はない。男性は「妻」という女性と4~5歳くらいの子どもを連れていた。
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