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在京オーケストラ7月レビュー ②読売日本交響楽団

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46年ぶりに読響の定期に登場した飯守。同響とのブルックナーの交響曲第4番は47年ぶりだという (C)読売日本交響楽団
46年ぶりに読響の定期に登場した飯守。同響とのブルックナーの交響曲第4番は47年ぶりだという (C)読売日本交響楽団

 7月の在京オーケストラの公演リポート第2弾は読売日本交響楽団の定期演奏会(7月21日、サントリーホール)。指揮は同響定期46年ぶりの登場となる飯守泰次郎。ブルックナーの交響曲第4番をメインに、前半にはモーツァルトの交響曲第35番でピリオド奏法の要素も取り入れた清新な演奏を披露した。(宮嶋 極)

 今年80歳の飯守はバイロイト音楽祭で長くアシスタントを務めるなど日本においてはワーグナーのスペシャリストとして人気を博しているが、彼のタクトでエッジの効いた今時のモーツァルト演奏が繰り広げられたことに少々驚かされた。冒頭の和音から長音はほとんどノーヴィブラートで、ピリオド奏法の要素が随所に散りばめられていたからだ。弦楽器のノーヴィブラートの響きは古典派交響曲の構造感を明確にするのに効果的。演奏全体を引き締め、作品に一層の生命感をもたらすように思う。飯守の指示なのか、それともバロック・ヴァイオリンにも熱心に取り組むこの日のコンサートマスター日下紗矢子の提案を指揮者が受け入れたものなのか、いずれにしてもこれこそが指揮者とオーケストラの一期一会の出会いで起こる化学反応であろう。

 メインのブルックナー4番は20世紀の巨匠たちを思い出させてくれるような構えの大きな堂々たる風格を感じさせる演奏であった。最近多くの指揮者がやるようにバランス重視でブラスの音量を必要以上に抑えることなく、高らかに強奏させるスタイルは国内では朝比奈隆以来かもしれない。金管楽器が大きな音量で演奏をしても弦楽器の音が14型編成にもかかわらずしっかり聴こえてくるあたりは、今の読響の能力の高さを示すものであろう。読響のハイスペックな力を得て飯守は自らが目指すブルックナー演奏の理想へと肉薄できたに違いない。終演後はオケが退場しても万雷の喝采が鳴りやまず、ステージに再登場した飯守は満足そうな笑みを浮かべていた。

読響の特別客演コンサートマスター、日下がリーダーを務め、若手を中心に精鋭メンバーがそろった室内合奏団公演 (C)読売日本交響楽団
読響の特別客演コンサートマスター、日下がリーダーを務め、若手を中心に精鋭メンバーがそろった室内合奏団公演 (C)読売日本交響楽団

 飯守との熱演の翌日夜には日下がリーダーを務める室内合奏団の公演がよみうり大手町ホールで開催された。日下を中心に第2ヴァイオリン首席の瀧村依里、第1ヴァイオリン次席の岸本萌乃加、ソロ・チェロの遠藤真理ら19人のメンバーと大井駿(チェンバロ&ピアノ)が織りなすアンサンブルは、その技術力の高さと演奏スタイルの多様さに目を見張るものがあった。ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」をメインに、それに対する形で冒頭にヴィヴァルディの「四季」から〝春〟。続いて1960年にアルゼンチンで生まれ、その後アメリカへ拠点を移して活躍するオスバルド・ゴリホフの「ラスト・ラウンド」、休憩を挟んでヴィヴァルディと同時代の作曲家フランチェスコ・ジェミニアーニの合奏協奏曲、そしてピアソラというプログラム構成も面白い。バロック作品では現代楽器によるピリオド奏法が徹底されており、アルゼンチンにルーツを持つ2人の作曲家による現代作品では多様な演奏技法が披露され両者の鮮やかなコントラストが聴衆を魅了した。日下と遠藤の表情豊かなソロは言うまでもなく素晴らしかったが、普段オーケストラ演奏では単独で音を聴く機会が少ない瀧村や岸本の表現力も特筆すべきものであった。前夜のブルックナーにおける弦楽器の豊かな響きもこうした腕の立つプレイヤーひとりひとりが支えているからこそ成立するものなのだと納得させられた。

公演データ 

【読売日本交響楽団 第610回定期演奏会】

7月21日(水)19:00 サントリーホール

指揮:飯守 泰次郎

コンサートマスター:日下 紗矢子

モーツァルト:交響曲第35番ニ長調K.385「ハフナー」

ブルックナー:交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」(第2稿、ノヴァーク版)

【読響アンサンブル・シリーズ第31回 日下紗矢子リーダーによる室内合奏団】

7月22日(木)19:30 よみうり大手町ホール

ヴァイオリン:日下 紗矢子(特別客演コンサートマスター)、瀧村依里(首席)、岸本萌乃加(次席)、荒川 以津美、小形 響、川口尭史、杉本真弓、武田桃子、外園彩香(首席代行)、山田耕司

ヴィオラ:森口恭子、冨田大輔、三浦克之、渡邉千春

チェロ:遠藤真理(ソロ・チェロ)、林 一公、室野良史

コントラバス:瀬 泰幸、ジョナサン・ステファニアク

チェンバロ&ピアノ:大井 駿

ヴィヴァルディ:「四季」から「春」

ゴリホフ:ラスト・ラウンド

ジェミニアーニ:合奏協奏曲第12番「ラ・フォリア」

ピアソラ(ホセ・ブラガート編):ブエノスアイレスの四季

筆者プロフィル

 宮嶋 極(みやじま きわみ) 毎日新聞グループホールディングス取締役、番組・映像制作会社である毎日映画社の代表取締役社長を務める傍ら音楽ジャーナリストとして活動。「クラシックナビ」における取材・執筆に加えて音楽専門誌での連載や公演プログラムへの寄稿、音楽専門チャンネルでの解説等も行っている。

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