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時の在りか

「靖国」など日本の戦後をテーマに取材を続けている伊藤智永編集委員が、政治を「座標軸」に鋭く論じます。

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開高健「ずばり東京」は今=伊藤智永

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開高健=1965年6月撮影
開高健=1965年6月撮影

 祭りのあとのけだるさこそ味わうべし。燃え盛るほどいっそすがすがしく、くすぶればただいらだたしい。明日閉幕の東京オリンピックに後ろめたさが張り付くのは、新型コロナウイルスのためばかりではあるまい。心おきなく楽しむには、オリンピック本体のまがまがしさをあまりに多く見せつけられた。

 57年前の東京五輪が甘美に語られがちなのも眉唾だ。神話を打ち砕くには開高健「ずばり東京」の一読をお勧めする。27歳で華々しく芥川賞作家になったものの小説が書けない30代の青年は、五輪開催へ急激に変貌しつつあった東京をくまなく歩き、見聞きし、調べ、週刊誌に1年余連載した。時代の記録である。

 集団就職の金の卵、自動車解体屋、鉄橋開通で消えた隅田川の渡守、まだ生き残っていた紙芝居屋、ある国の名前を冠して呼ばれた特殊浴場の従業員、「マンション」を名乗り始めた高級アパート業者、スリ、画商、競馬の予想屋、流しの演歌師、都庁職員、ヒッチハイカー、深夜喫茶、初期の人間ドック、うたごえ酒場、少年鑑別所、労災病院……。

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