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産業遺産で「遺憾」決議 負の面認め誠実な対応を

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 世界文化遺産を巡る日本政府の対応に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の委員会が「強い遺憾」を表明する決議を採択した。

 6年前に登録された「明治日本の産業革命遺産」だ。軍艦島として知られる長崎県の端島(はしま)炭坑で戦時中に働かされた朝鮮半島出身の元徴用工に関する説明が、不十分だと批判された。

 日本政府は登録の際、「自らの意思に反して連れてこられ、厳しい環境下で働かされた多くの朝鮮半島出身者がいたこと」を説明すると約束していた。登録に難色を示した韓国政府の理解を得るためだった。

 遺産は、8県に散在する23の炭鉱や造船所、製鉄所などで構成される。全体像を紹介する産業遺産情報センターが昨年、東京都内に開設された。

 だが元徴用工に関しては、センターの資料室で関係法令や当時の行政文書を紹介する程度にとどまっている。

 今年6月にセンターを視察したユネスコの専門家は「強制的に働かされた人はいないと読める内容だ」と報告書で指摘した。

 ユネスコの委員会はこれまでも韓国との対話を促してきた。3回目となる今回の決議は、専門家の報告書に基づいて日本に対応を求めた。

 歴史に対して誠実であろうとするならば、負の側面も直視するのは当然だ。

 産業革命発祥の地である英国では輝かしい成果だけでなく、それを底辺で支えた奴隷労働などの歴史も併せて紹介されている。

 日本は、来年12月1日までに対応について報告するよう要請された。政府は登録時の約束を履行してきたと主張するが、国際社会の納得は得られていない。展示の見直しが必要だ。

 ユネスコの委員会からは「犠牲者を記憶にとどめるための適切な措置」も求められている。

 遺産を構成する炭鉱や工場での事故や災害の犠牲者を追悼する取り組みも不十分だとみなされたからだ。日本が明治時代に近代化を遂げた裏には、こうした人々の存在があった。

 歴史には光と影の両面がある。いずれにも向き合ってこそ、その重みを知ることができる。

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