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先月のピカイチ 来月のイチオシ

毎月数多くの公演に足を運び耳を傾けている鑑賞の達人が、1カ月で最も印象に残った演奏と、これから1カ月で聴き逃せないプログラムを紹介します。

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先月のピカイチ 来月のイチオシ

21カ月ぶり ミンコフスキ&オーケストラ・アンサンブル金沢の快演……21年7月

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7月、芸術監督ミンコフスキとの共演を21カ月ぶりに実現させたオーケストラ・アンサンブル金沢 写真提供:オーケストラ・アンサンブル金沢
7月、芸術監督ミンコフスキとの共演を21カ月ぶりに実現させたオーケストラ・アンサンブル金沢 写真提供:オーケストラ・アンサンブル金沢

 「先月のピカイチ、来月のイチオシ」連載、今月も通常のスタイルで7月に開催された公演の中からピカイチを、10月に開催予定の公演からイチ推しを選者の皆さんに紹介していただきます。

◆◆7月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈オーケストラ・アンサンブル金沢 特別公演(7/15)〉

7月15日(木)石川県立音楽堂コンサートホール

マルク・ミンコフスキ(指揮)/オーケストラ・アンサンブル金沢

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」、第5番「運命」

〈群馬交響楽団第570回定期演奏会〉

7月17日(土)高崎芸術劇場 大劇場

尾高忠明(指揮)/群馬交響楽団

ブルックナー:交響曲第5番 (ノヴァーク版)

 ミンコフスキとOEKのベートーヴェン・ツィクルスは7月10日から開始されたが、その3夜目に演奏された2曲は、まさに沸騰の極致。これほど強烈な「運命」は聴いたことがない。第4楽章は狂乱の昂揚(こうよう)で、ベートーヴェンの恐るべき意志力が再現された演奏だった。「次点」には飯守泰次郎と読響のブルックナー「4番」も挙げたいが、先月も彼の演奏会を推したので、ここでは尾高と群響の驚異的な均衡の快演を挙げる。

◆◆10月◆◆ 東条碩夫(音楽評論家)選

〈オーケストラ・アンサンブル金沢 第447回定期公演〉

10月21日(木)石川県立音楽堂コンサートホール

マルク・ミンコフスキ(指揮)/オーケストラ・アンサンブル金沢

ベートーヴェン:交響曲第4番、第7番

〈東京都交響楽団第936、937回定期演奏会〉

10月20日(水)東京芸術劇場コンサートホール、21日(木)サントリーホール

大野和士(指揮)/東京都交響楽団/藤村実穂子(S)/アンドレアス・シャーガー(T)、他

ツェムリンスキー:「メーテルリンクの詩による6つの歌」、歌劇「フィレンツェの悲劇」(演奏会形式)

 7月に聴いたミンコフスキ&OEKのベートーヴェンの交響曲があまりに見事だったので、その続編たる「4番&7番」をも挙げざるを得ない。9月のデュトワ(サイトウ・キネン・オーケストラ客演)と同様、ぜひとも来日実現を祈りたい指揮者の一人がこのミンコフスキだ。次点には、大野和士が「オペラ・コンチェルタンテ」以来29年ぶりに日本で指揮する「フィレンツェの悲劇」を挙げる。鮮烈な音楽の迫力が楽しみ。


◆◆7月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈オーケストラ・アンサンブル金沢 第443回定期公演〉

7月10日(土)石川県立音楽堂コンサートホール

マルク・ミンコフスキ(指揮)/オーケストラ・アンサンブル金沢

ベートーヴェン:交響曲第1番、第3番「英雄」

〈日下紗矢子&日下知奈 シューマン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会+3つのロマンス〉

7月15日(木)王子ホール

日下紗矢子(ヴァイオリン)/日下知奈(ピアノ)

シューマン:ヴァイオリン・ソナタ第1~3番、「3つのロマンス」

 ミンコフスキのベートーヴェン全交響曲連続演奏会の初回公演では、マエストロがもたらす弾力感と愉悦感にこの上なく魅せられた。小編成の強みを生かした精緻・精妙な造作と生気やエネルギーを兼ね備えた表現が耳を奪い、特に第1番は愉悦感満点。これならば2&8番、5&6番も聴きたかった。日下姉妹の公演は、シューマンのヴァイオリン・ソナタ全曲を一挙に奏でた希少な夕べ。陰影に富んだ表現で彼の同ジャンルの真価を知らしめた。

◆◆10月◆◆ 柴田克彦(音楽ライター)選

〈オーケストラ・アンサンブル金沢 第447回定期公演〉

10月21日(木)石川県立音楽堂コンサートホール

マルク・ミンコフスキ(指揮)/オーケストラ・アンサンブル金沢

ベートーヴェン:交響曲第4番、第7番

〈日本フィルハーモニー交響楽団 第734回東京定期演奏会〉

10月22日(金)、23日(土)サントリーホール

アレクサンドル・ラザレフ(指揮)/福間洸太朗(ピアノ)/日本フィルハーモニー交響楽団

リムスキー=コルサコフ:「金鶏」組曲、ピアノ協奏曲/ショスタコーヴィチ:交響曲第10番

 ピカイチで挙げたミンコフスキ&OEKのベートーヴェンの次回公演は、当然期待度MAX。第1番の生気や弾力感からして、4番&7番はその特性が最大限に生きること必至の組み合わせだ。本公演は万難を排して足を運びたい。またラザレフが振った際の日本フィルが格別であるのを、4月の久々登場時に再実感した。今度は特にプログラムがいい。R=コルサコフのレア曲も楽しみだし、ショスタコーヴィチの10番の快演を思うと胸が踊る。


◆◆7月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈川口成彦 ショパンをめぐる旅〉

7月17日(土)トッパンホール

川口成彦(フォルテピアノ)

オネゲル:ショパンの思い出/シューマン:ショパンの夜想曲による変奏曲/モンポウ:ショパンの主題による変奏曲/ショパン:24の前奏曲より第1番、ポロネーズ第4番、夜想曲第10番、ほか

2台の楽器を用いてショパンとショパンへのオマージュ作品をつづった川口成彦の「ショパンをめぐる旅」 写真提供:トッパンホール (C)大窪道治
2台の楽器を用いてショパンとショパンへのオマージュ作品をつづった川口成彦の「ショパンをめぐる旅」 写真提供:トッパンホール (C)大窪道治

〈オーケストラ・ニッポニカ第38回演奏会「松村禎三交響作品展」〉

7月18日(日)紀尾井ホール

野平一郎(指揮)/渡邉康雄(ピアノ)

松村禎三:ピアノ協奏曲第1番、「ゲッセマネの夜に」、交響曲第1番

 2018年にワルシャワで開かれた第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールで第2位に入ったのを境に知名度を上げた鍵盤楽器奏者、川口成彦は第31回日本製鉄音楽賞フレッシュアーティスト賞も受けるなど、急激に評価を高めている。トッパンホールでは1843年製プレイエル、1887年製スタインウェイを弾き分け、ピリオド楽器スペシャリストの枠を超えた強く個性的な音楽性、卓越したプログラミング能力で圧倒した。

 翌日、紀尾井ホールで〝再会〟した松村禎三の音楽も時代を超え放たれる情念の渦、生死感に彩られていて圧巻。とりわけピアノ協奏曲第1番での渡邉康雄のソロは聴きごたえがあった。

◆◆10月◆◆ 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)選

〈「ボンクリ・フェス2021」スペシャル・コンサート〉

10月2日(土)東京芸術劇場コンサートホール

佐藤紀雄(指揮)/アンサンブル・ノマド/LEO(箏)、ほか

藤倉 大:「芯座」「infinite string」/大友良英:新作(いずれも世界初演)、ほか

昨年開催された東京芸術劇場「ボンクリ・フェス」より、スペシャル・コンサートの様子 (c)Hikaru.☆
昨年開催された東京芸術劇場「ボンクリ・フェス」より、スペシャル・コンサートの様子 (c)Hikaru.☆

〈オーケストラ・アンサンブル金沢 第447回定期公演〉

10月21日(木)石川県立音楽堂コンサートホール

マルク・ミンコフスキ(指揮)/オーケストラ・アンサンブル金沢

ベートーヴェン:交響曲第4番、第7番

 作曲家の藤倉大が東京芸術劇場で続けるフェスティバル「ボンクリ」は毎年、耳と目と体に大きな刺激を与えてくれる。今年は自作の「芯座」「infinite string」世界初演をはじめ、一際の気合が入っている。大友良英ら他の作曲家の初演作品ともども、未知との遭遇を存分に楽しめそうだ。

 オーケストラ・アンサンブル金沢が音楽監督ミンコフスキと続けているベートーヴェンの交響曲全曲シリーズも、10月にはいよいよ佳境。東京や大阪からも大勢が駆けつけるなか、「4&7」の定番カップリングへの処方箋が注目される。


◆◆7月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈川口成彦 ショパンをめぐる旅〉

7月17日(土)トッパンホール

川口成彦(フォルテピアノ)

オネゲル:ショパンの思い出/シューマン:ショパンの夜想曲による変奏曲/モンポウ:ショパンの主題による変奏曲/ショパン:24の前奏曲より第1番、ポロネーズ第4番、夜想曲第10番、バラード第2番、ほか

〈新国立劇場 ビゼー「カルメン」新制作〉

7月11日(日)新国立劇場オペラパレス

大野和士(指揮)/アレックス・オリエ(演出)/東京フィルハーモニー交響楽団/新国立劇場合唱団/ステファニー・ドゥストラック(カルメン)/村上敏明(ドン・ホセ)、ほか

ビゼー:「カルメン」全4幕

 18年の第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールで2位に輝いた川口成彦をトッパンホールで初めて聴いた。プレイエル(1843年製)とヴィンテージ・スタインウェイ(1887年製)の2台を弾き分け、楽器の表現力を存分に生かした構成もさることながら、バラード2番の最後a tempoの前で響かせた高音のDis、たった一つの音で人を虜(とりこ)にする、そういうショパンだった。世界のトッププレーヤーが渾身(こんしん)のプログラムで魅了してきたこのホールに新たな1ページが刻まれた。

 新国立劇場のカルメン、ドゥストラックの奔放な歌姫が圧倒的な歌唱で、演出家のイメージを体現。第4幕のカルメンとホセの二重唱は指揮の大野のタクトから生まれる管弦楽の哀愁と共に公演の白眉となった。

◆◆10月◆◆ 毬沙琳(音楽ジャーナリスト)選

〈NHK交響楽団 定期演奏会Bシリーズ〉

10月27日(水)、28日(木)サントリーホール

ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)

ステンハンマル:セレナード へ長調/ベートーヴェン:交響曲第5番

2019年11月以来のN響への来演が待ち望まれるブロムシュテット 写真提供:NHK交響楽団
2019年11月以来のN響への来演が待ち望まれるブロムシュテット 写真提供:NHK交響楽団

〈東京都交響楽団 定期演奏会B,Cシリーズ〉

10月20日(水)東京芸術劇場コンサートホール、21日(木)サントリーホール

大野和士(指揮)/藤村実穂子(メゾソプラノ)※/齊藤純子(ソプラノ)/アンドレアス・シャーガー(テノール)/セス・カリコ(バリトン)

ツェムリンスキー: 「メーテルリンクの詩による6つの歌」(※)/歌劇「フィレンツェの悲劇(演奏会形式)

 コロナ禍でも海外渡航制限が緩和されるという望みをかけて、各オーケストラ、ホールも多彩な出演者とプログラミングが用意されている秋。94歳のブロムシュテットがタクトを振るN響は三つのプログラムの中から、2018年にも聴いたステンハンマルとベートーヴェンの組み合わせの妙を挙げた。都響はツェムリンスキー生誕150年プロジェクトで演奏会形式の「フィレンツェの悲劇」に挑む。19年に新国立劇場の同オペラで印象的なソプラノを聴かせた齊藤純子、世界的なテノール、アンドレアス・シャーガーらソリストたちの競演に期待。


◆◆7月◆◆ 宮嶋極(音楽ジャーナリスト)選

<読響アンサンブル・シリーズ 日下紗矢子リーダーによる室内合奏団>

7月22日(木)よみうり大手町ホール

日下紗矢子(ヴァイオリン)/瀧村依里(同)/森口恭子(ヴィオラ)/遠藤真理(チェロ)/瀬 泰幸(コントラバス)/大井 駿(チェンバロ&ピアノ)、ほか

ヴィヴァルディ:「四季」から「春」/ゴリホフ:ラスト・ラウンド/ジェミニアーニ:合奏協奏曲第12番「ラ・フォリア」/ピアソラ(ホセ・ブラガート編):ブエノスアイレスの四季

読響の特別客演コンマス、日下紗矢子と同響の精鋭メンバーによる読響アンサンブル・シリーズ (C)読売日本交響楽団
読響の特別客演コンマス、日下紗矢子と同響の精鋭メンバーによる読響アンサンブル・シリーズ (C)読売日本交響楽団

〈新国立劇場 ビゼー「カルメン」新制作〉

7月11日(日)新国立劇場オペラパレス

大野和士(指揮)/アレックス・オリエ(演出)/東京フィルハーモニー交響楽団/新国立劇場合唱団/ステファニー・ドゥストラック(カルメン)/村上敏明(ドン・ホセ)、ほか

ビゼー:「カルメン」全4幕

 読響特別客演コンマス日下紗矢子がリーダーを務め、ソロ・チェロ奏者の遠藤真理ら腕利きメンバーによるアンサンブルは高い技術に裏打ちされた俊敏かつ柔軟な演奏で思わず息をのむ瞬間が何度も訪れる秀演。バロック・ヴァイオリンにも取り組む日下がリードする合奏は作曲年代に対応した最先端の演奏スタイルを体現するものであった。ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」をメインに、それと対になる形で冒頭にヴィヴァルディの「四季」から〝春〟を置き、バロックと20世紀のアルゼンチン音楽が交互に演奏されるプログラミングも良かった。次点の新国「カルメン」はコロナ禍の多くの制約の中、一定の水準にまとめ上げる大野和士の手腕が今回も光を放っていた。

◆◆10月◆◆ 宮嶋極(音楽ジャーナリスト)選

〈ヘルベルト・プロムシュテット指揮 NHK交響楽団定期演奏会〉

Aプロ:10月16日(土)、17日(日)東京芸術劇場コンサートホール

レオニダス・カヴァコス(ヴァイオリン)

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲/ニルセン:交響曲第5番

Bプロ:10月27日(水)、28日(木)サントリーホール

ステンハンマル:セレナードヘ長調/ベートーヴェン:交響曲第5番

Cプロ:10月22日(金)、23日(土)東京芸術劇場コンサートホール

グリーグ:「ペール・ギュント」組曲第1番/ドヴォルザーク:交響曲第8番

なし

 ブロムシュテットのN響来演は2019年11月以来。94歳のマエストロは老成という言葉からは無縁の存在である。古典派作品については最新の研究・校訂結果を反映させた演奏を積極的に行うなど、これほどのキャリアがありながら作曲家と作品に対する探究を怠らない真摯(しんし)な姿勢は尊敬に値する。N響との関係は40年。両者の厚い信頼関係から紡ぎ出される音楽は彼の意思が他のどのオケよりもストレートに表出される。今回は3プログラムとも北欧の作品とベートーヴェンの交響曲第5番などの名曲を組み合わせた構成。ぜひすべて聴いてほしい。よって次点の紹介はなし。

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